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バレーボールPRESSBACK NUMBER
「練習のシーンは…まさに地獄だったわ!」なぜ“昭和スポ根アニメ”は異国で愛された? 伝説の女子バレー物語「日本人はみんなミラ・ハヅキの娘よ」
text by

弓削高志Takashi Yuge
photograph byICHI
posted2025/08/29 11:04
アニメ『アタッカーYOU!』に登場する(左から)多岐川絵里、葉月優、早瀬奈美
昭和のアニメで描かれたスパルタ式猛練習は、イタリアのバレー少女だった彼女の目にどう映ったのだろうか。
「まさに地獄だったわね!」と4度くり返したイタリア代表OGは、鬼コーチたちを「人でなし」と豪快に笑い飛ばした。
「それでも、私のようにアニメを見ていた子たちは皆、特訓シーンを真似たものよ。毎晩ベッドで寝る前に“ミミやミラのように壁に向かって跳んで反発力を利用してレシーブできたらなあ”って何度想像したことか! あのプレーは無理なんだと理解できる年齢になっても、なかなかあきらめきれなかった」
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でもね、日本ですごい経験をしたの、と秘話を明かしてくれた。
「イタリア代表に選ばれて日本で強化合宿をしたことがあって。チーム名は忘れてしまったけれど、私たちをホストしてくれた実業団の施設で寝泊まりして、ひと月はいたかしら。日本の選手たちといっしょに食事や練習をしたんだけど、私は合宿の間ずっと心の中で“アニメで見たのと同じ体育館! 同じ練習!”って感動しっ放しだった。日本のチーム練習は戦闘マシンを鍛えてるみたいに厳しくて、イタリア代表の仲間たちと心底驚いた。私は『日本では現実とアニメは同じなんだ』と内心カルチャーショックを受けたわ(笑)」
国境を越えて愛されたヒロイン
1980年代当時と現代では、女子バレーボール界の勢力図は大きく変わった。
イタリアを筆頭にトルコやセルビアといった欧州勢やアメリカ、ブラジルが列強を成す2025年現在と比べ、『アタックNo.1』や『アタッカーYOU!』の劇中ではソ連やキューバ、中国といった共産圏の国が世界をリードする強豪として描かれている。
マンジフェスタは2003年に引退するまで20年近くに及ぶ選手キャリアをふり返りながら、時代の変遷を懐かしむように語った。
「昔は交流する方法が限られていたから、国籍のちがう選手同士が友情を育むことは難しかった。私たちの時代の指導者は鬼軍曹タイプが多くて、代表でもコートの外で選手たちが個人的に仲良くすることを許さなかったものよ。今の選手たちは自由でうらやましいくらい。それでも一つ言えるのは、いろいろな国の選手といっしょにさまざまな国でプレーしてきた中で、誰もがミミやミラを見てバレーを始めたと言っていたことよ。本当に素晴らしいことだった」
作品の舞台が遠い日本でも気にならなかった。アニメのテーマ自体がバレーそのものであり、スポーツの素晴らしさを伝えるものだったから、と力説した。
「ミミとミラ、彼女たちこそ私たちの憧れ、ヒロインだった。皆が彼女たちに恋していたわ」
少女時代の初恋を懐かしむようにポツリと言うと、マンジフェスタは『ミミ』のテーマソングを口ずさみ始めた。


