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プロ野球PRESSBACK NUMBER
阪神ドラ1・伊藤隼太が受けた“戦力外通告”その後「あの感覚は“麻薬”ですよ(笑)」野球を諦めかけた伊藤を救った、ある“お笑い芸人”の言葉
text by

谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2025/08/28 17:01
2020年に阪神から戦力外通告を受けた伊藤隼太。現在はオイシックス新潟でコーチを務めている
「他球団に誘われたら考える、というのは中途半端じゃないか? やりたい気持ちが少しでもあるなら続けたらいい。それに最後、家族に野球している姿を見せることもお前の仕事なんじゃないのか」
野球から離れた時間を過ごしていた伊藤はトライアウトまで2週間を切ったタイミングで受験を決める。家族だけがスタンドに入ることを許されたコロナ禍の厳戒態勢のなか、1本のツーベースを放った。
「みんなからお疲れさんと言われたとき、ものすごい達成感があったんです。気持ちいい疲労感というか。その感覚が久しぶりで。2年間ずっとファームにいて、自分なりにモチベーションを保ってやっていたつもりだったんですが、一軍の緊張感に近いものを思い出した瞬間でした」
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野球を楽しいと思えた実感を伊藤は“麻薬”と言った。年が明けた2021年1月、オファーを受けた四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツに加入。選手兼任コーチは同球団としても初めてのケースだった。
「選手として入った方が絶対に楽。でも、そっち(コーチ兼任)の方がおもしろそうだなと思ったんです。指導者の立場でいろいろ学べることもあるかなと。“元プロ”だから打って当然というプレッシャーはありましたけど、いい意味で重圧から解放されて野球を楽しめた時間でした。慣れない環境で大変なことも多かったですが、若い子たちと汗を流しながらユニフォームを手洗いした経験は野球への向き合い方を見直すきっかけになりましたね」
オイシックス新潟で指導する現在
2022年で選手を引退、その後2年間コーチを務め、2025年にオイシックス新潟へやってきた。首脳陣には伊藤と同じようにNPBで活躍したOBたちが並び、若手選手たちに混ざって元阪神・高山俊や巨人などで活躍した陽岱鋼ら実績あるプレーヤーがそろう。指導する立場として難しさもあるはずだ。
「それぞれ目指すものや方向性が違うのでね。実績ある選手にはある程度自由にやってもらっていいけれど、上を目指す若い選手たちには目線を合わせながらNPBのレベルを伝えていかないといけません。今になって気づくことがいっぱいあるので、それを若い選手たちに教えてあげたい。自分が経験した悔しい思いが次の世代のヒントにつながれば嬉しい」

