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野球クロスロードBACK NUMBER
「全員が少し余裕を持ってしまった」甲子園“優勝候補の大本命”横浜敗退の衝撃…その誤算の正体とは? 涙の主将は「全て出し切って負けたので…」
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/08/20 11:09
延長12回の激闘の末、県岐商にサヨナラ安打を打たれた横浜エースの奥村頼人。一時は3点リードの瞬間もあったが、その差が鬼門となったという
満塁から走者一掃となる同点のツーベースヒットを打たれても、駒橋は「あの1球が全てだった」と前のバッターへの反省を口にした。
その後、1死一、三塁とサヨナラの窮地で、再び内野5人シフトを敷き無失点で切り抜け、守りから攻める姿勢は崩さなかった。
クライマックスでも、そうだった。
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延長11回裏、2死一、三塁。テンポよく2ストライクと追い込んだ奥村頼に、駒橋は信頼を寄せていた。
「あのテンポは頼人の真骨頂というか、いい時にしかでないので」
夏の甲子園初登板だった綾羽戦と同じように、この試合でも奥村頼はストレート中心のピッチングで横浜のマウンドを守っていた。
4球目。そのボール――外角よりの高めストレートをレフトへ弾き返された。強さを求めてきた1球を打たれ、マウンド上で崩れる。だが、彼に言い訳はなかった。
「もう1個、押し切れたらよかったかなと。それは今後、レベルアップしていければいいな、と思います」
7-8。
延長11回までもつれた2時間42分にもわたる死闘の末、サヨナラで敗れた。
春の王者。夏の日本一も宿命づけられながらも、横浜は負けない覚悟を体現した。意地は姿勢に通ず。春夏連覇が途絶えたチーは慟哭に打ちひしがれてもなお、監督も選手も、全員が顔を上げていた。
主将は試合後…「全て出し切って負けたんで」
チームの顔。先頭に立って王者を牽引してきたキャプテンの阿部葉は、目を真っ赤に腫らせ、時に声を震わせながらも横浜の野球を誇り、そして勝者を称えた。
「横浜高校がやってきた野球を、全て出し切って負けたんでしょうがないというか。自分たち以上に県立岐阜商業のほうが、いいチームを作り上げてきたんだなと思いました」
春に咲いた、横浜の花。
夏の散り様は潔く、美しかった。

