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「転倒で学べることはない」“バイクIQ”に自信を持つ小椋藍が、過去になかった多くの転倒で直面している世界最高峰の壁
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遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2025/08/20 11:02
オーストリアGP終了時点でランキング16位の小椋。シーズン後半での巻き返しはなるか
しかし、転倒することで速くなっていく選手も多い。圧倒的な強さでシーズンを戦っている天才マルク・マルケスもそのひとり。フリー走行や予選では転倒することが多いが、この転倒で限界を探ったマルケスは、決勝では限界を超えないように走って連戦連勝につなげる。それが彼がレースで強い理由だということをわかった上で、小椋はこう語ってくれた。
「転倒で学べることは、僕にはそれほどない。これ以上いくと危ないというのがわかるけれど、転倒することで速く走れるようになったことはいままで一度もないし……。今年のレースで、もしやり直せるのならイギリスですね。転倒すること以上に欠場はいけないことだから……」
ホンダ時代のマルケスは、小椋にとって「なんであんな走りができるのだろう」という意味で「腹の立つライダーだった」。そしていま、ドゥカティで圧倒的な強さを見せ、同じ土俵で戦うようになったマルケスの速さをこう分析する。
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「フロントとリアのバランスが上手すぎる。あんな走りが出来るのはマルクだけ。タイヤに100のパフォーマンスがあるとして、彼はどんな角度でも100を引き出して走れるライダー。マルクが転ぶときはだれよりも速いときだし、彼の80は誰にとっても100の走りになる。いま、マルクに勝てる部分はどこにもないです」
勝利に必要な努力と才能
そんな小椋に、MotoGPクラスの「勝利」への距離は縮まったかと聞いた。
「開幕戦からここまでですか……。いまはまだ、本当にとんでもなく離れたところでの誤差でしかないと思う。そのとんでもなく遠いところで近づいたり離れたりだから、デビュー戦からなにも変わっていないですね」
その距離を縮めるために実戦を離れたときも、小椋は連日いろんなバイクで練習に励む。テーマはフロントとリアのバランス。「どういうバランスで、タイヤの限界、バイクの限界を引き出せるか。結局、速く走れるかどうかは、そこなんだと思う」と課題を語る。
小椋は自身の才能について「そんなにある方じゃないと思う。バイクは言葉で説明できない部分が多く感覚的な部分が多い。そういう意味では、才能が反映されやすいスポーツなのかも」と語る。
そして、自身の努力については小椋らしい言い回しで説明する。
「努力を言葉で説明するのは難しい。方向性がまちがっているときもあるし、どんなに努力しても10とか20としか得られないこともある……。結果につながらないときに努力という言葉は美談でしかないから」
小椋はバイクに関する「IQ」があるとすれば、「いまの日本人選手の中ではだれよりもあると思う」と語る。子供のころから、どのスクールにもチームにも所属せず、先生に教えてもらったこともない。「常に自分で考えてきた」ことで養われたものだという。
「行き詰まったとき、これからどうしようとなったとき、その答えを見つけるのは他のライダーよりはちょっと長けているかも知れないですね」
世界最高峰の壁と戦う小椋のバイクIQが、これから彼を世界頂点へとどう導いていくのか。今年は残り9戦。これからの活躍と成長に期待したい。

