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「朝4時まで紛糾…突然の棋士生命延長制度」元A級棋士が見た“順位戦舞台ウラ”「今期は羽生善治も谷川浩司も」タイトル獲得棋士がB級2組にズラリ

posted2025/08/14 11:01

 
「朝4時まで紛糾…突然の棋士生命延長制度」元A級棋士が見た“順位戦舞台ウラ”「今期は羽生善治も谷川浩司も」タイトル獲得棋士がB級2組にズラリ<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

タイトル通算99期の実績を持つ羽生善治九段。現在は順位戦B級2組で戦っている

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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Nanae Suzuki

 終戦からまもない頃に始まった「順位戦」制度は、現代まで約80年にわたって引き継がれてきた。昇級・降級をともなう厳しい勝負は、将棋ファンに大いに評価されている。ただ長い間にひずみが生じているのも事実だ。現状の問題点などを、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書はいずれも当時】

大先輩の“首を切った”一局

 私こと田丸は1968年に18歳で三段に昇段。3期目の関東三段リーグで優勝したが、東西決戦で関西リーグ優勝者に敗れた。69年度からは敗者同士の再決戦は廃止されていた。72年に7期目の関東リーグで優勝し、東西決戦で関西優勝者に勝って21歳で四段に昇段して棋士になった。

 1974年2月、私は2期目のC級2組順位戦で関西の星田啓三七段(57)と対戦した。7勝1敗で迎えた9回戦で、勝てばC級1組への昇級が濃厚になる。星田は伝説の棋士・阪田三吉(贈名人・王将)の弟子で、師匠譲りの力強い指し方に特徴があった。

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 私は星田の三間飛車に対して、急戦策で攻め込んで有利と思っていたが、星田は自陣に馬を引いて少しずつ圧力をかけてきた。終盤では負け筋になってしまった。しかし、星田に緩手があって逆転勝ちできた。

 その後、関西本部の事務室に寄った。当時はファクスもネット中継もなかったため、宿直の人に東京での順位戦の結果を電話で聞いてもらった。競争相手の棋士が負ければ私の昇級が決まるが、まだ対局中のことだった。そこで「果報は飲んで待て」と思い、独りで外出した。すると星田に「そこらに行きまひょ」と声をかけられ、近くの居酒屋で飲んだ。

 星田はお酒が心から好きなようで、うまそうに杯を傾けた。私は雑談しているうちに、星田の成績不良が気になった。降級点が累積3回になると降級するからだ。それは引退を意味した。私は星田の首を切ったのかと思うと、勝利の美酒が苦く感じられた。対局者同士で飲んだ場合、勝者が勘定を払うのが棋界の習わしだが、大先輩の星田に「まあ、ここは私に……」と言われた。

総会が紛糾した“C2から落とさない制度”

 私は翌朝、C級1組への昇級を知らされた。そして、星田が降級したことも……。

【次ページ】 休憩なしで議論…閉会したのは午前4時だった

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