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「朝4時まで紛糾…突然の棋士生命延長制度」元A級棋士が見た“順位戦舞台ウラ”「今期は羽生善治も谷川浩司も」タイトル獲得棋士がB級2組にズラリ 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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posted2025/08/14 11:01

「朝4時まで紛糾…突然の棋士生命延長制度」元A級棋士が見た“順位戦舞台ウラ”「今期は羽生善治も谷川浩司も」タイトル獲得棋士がB級2組にズラリ<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

タイトル通算99期の実績を持つ羽生善治九段。現在は順位戦B級2組で戦っている

 それから3カ月後の1974年5月、将棋連盟の通常総会が開かれた。新将棋会館の建設、順位戦制度改革、四段昇段規定など、重要な問題が山積していて、午後1時の開会から10時間たっても延々と続いた。

 やがて連盟会長の加藤治郎八段(63)は、「昨年秋の臨時総会で、C級2組から落とさない制度を提案するつもりがうっかり忘れてしまった。時期は遅れたがこの場で了承してもらいたい」と、思いも寄らない動議を出した。しかし、すでに終わっていた順位戦の結果を覆すことで、勝負の世界ではありえない話だ。当然ながら反対意見が多く出た。議論が紛糾した状況で、加藤会長は「その問題は理事会に預けてほしい」と収拾を図った。

休憩なしで議論…閉会したのは午前4時だった

 次に奨励会の四段昇段規定が議題となった。そして東西決戦が廃止され、三段と二段以下が合体した昔の制度に戻ることが決まった。それだと年間の四段昇段者が不定数となり、連盟の財政に影響しかねないが、大方の棋士が賛成した。

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 1974年5月の連盟総会は、ほとんど休憩なしで議論され、閉会したのは空が明るくなった午前4時だった。

 総会の後日、理事会は加藤会長が提案した制度を正式に決定した。順位戦でC級2組から降級しても、他棋戦に出場できる「C3」制度が設けられ、星田七段らは現役を続行できた。棋士生命を延長させるC3制度と、四段昇段規定を緩和させることが、まるでバーターのように決まったのだ。

 私は正直なところ、星田の首切り人にならずにすみ、ほっとした思いだった。

名人戦の契約金を巡って起きた大問題とは

 そんな「暁の総会」の翌年、将棋連盟は名人戦契約金をめぐって大問題が起きた。

 1974(昭和49)年12月、まず激震が走ったのは囲碁界だった。囲碁団体の日本棋院は囲碁名人戦を主催していた読売新聞社に対して、契約の解除を突如通告した。棋院はその数日後に朝日新聞社と名人戦の契約を締結した。契約金は3倍以上の1億1000万円に増額された。棋院は名人戦の契約金の増額に応じてこなかった読売を見限ったのだ。ただ棋戦契約を一方的に打ち切った前例はなく、読売は棋院と朝日の契約無効を訴えて提訴した。

 囲碁界の動きは将棋界にも影響が及んだ。以下、時系列で事実を記す。

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