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松坂大輔が語る甲子園「横浜vsPL学園」延長17回の激闘秘話「あの感覚はなんだったんですかね。終わるのがもったいないと思っていたのかな」
text by

石田雄太Yuta Ishida
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/08/14 11:08
夏の甲子園伝説の死闘「横浜vsPL学園」延長17回250球の真相について、松坂大輔が明かした
延長11回で試合が決まっていたら…
それが、バットが届くところへ入ってしまいます。あれは良男の配球ミスもあったかもしれませんが、僕のコントロールミスでした。大西に甘いカーブを打たれて打球が三遊間を抜けた。6−6の同点です。打たれた直後、さすがに僕、良男に「大西に カーブはダメだよ」と言ったそうです。良男は、だったら首を振ってくれよと思った とか(笑)。ただ、そもそも僕は良男のサインに首を振ったことがない。サインが出たら、良男がどういうボールを投げてほしいのかをイメージして、自分なりに解釈して投げていました。たとえばスライダーだったら、いいところに決めるんじゃなくてボール球がほしいんだなとか、インコースのストレートのサインも、ここはストライクじゃなくて胸元を抉ってほしいんだなとか、そうやって考えて投げてきたんです。だから大西に打たれたカーブもワンバウンドのボール球にして、次の球で勝負するつもりでした。その球で大西を打ち取っていたら、そこで試合は終わっています。
たぶん、延長11回で勝負が決まっていたら、夏の甲子園のベストゲームなんて言われることはなかったでしょうね(笑)。僕だって250 球も投げることはなかった(11回で終わっていたら173 球)し、延長17回の常盤(良太)の決勝2ランもなかった。そうやって考えたらあのカーブもよかったのかな、なんて考えたりもします。
試合後に「いえ、自分は投げられません」
試合が終わって感じたのは、ただただ疲れたということだけでした。PLに勝った達成感を味わった覚えもないし、帰りのバスでのこともまったく覚えていない。唯一、覚えているのは試合後のインタビューで明日は投げるんですよねと訊かれて、「いえ、自分は投げられません」と答えたことくらいです。僕のその言葉を聞いて、監督は「誰が投げるのかはオレが決めることだ」と心の中で怒っていたらしいと、後から誰かに聞かされました。でも、準決勝で僕が投げないことは決まっていたはずなんですよ。だって4連投はさせないって言ってましたし、準決勝で投げたら決勝まで4連投になる。だから僕は投げたくても投げられないという意味でああいう言い方をしたんです。なのに監督は今でも僕に言うんですよ。「お前が勝手に決めた」って(笑)。
<前編から続く>
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