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高校野球“消えた名門公立校”沖縄水産のナゾを追う「飲酒、喫煙は当たり前」超ヤンキー高校がなぜ甲子園の常連に?「賛否両論の名将」栽弘義の正体 

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松永多佳倫

松永多佳倫Takarin Matsunaga

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photograph bySankei Shimbun

posted2025/08/06 11:04

高校野球“消えた名門公立校”沖縄水産のナゾを追う「飲酒、喫煙は当たり前」超ヤンキー高校がなぜ甲子園の常連に?「賛否両論の名将」栽弘義の正体<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

沖縄水産を全国レベルの強豪校へと引き上げた名将・栽弘義。だが栽亡きあと、同校は甲子園の土を踏めずにいる

 一つ目は、自由に使用できる広大な敷地を保有していること。二つ目は水産高校のため、全県一区ということで学区制に縛られず全島から生徒を集められること。つまり私学のように自由に選手を獲得できるのだ。公立高校にとって最大懸案事項の二点が解消されることで、栽は沖縄水産で頂点を狙えると確信した。

 まずは広大な敷地を整備するところから始まった。土木関係の知り合いに声をかけ、ブルドーザーを借りて自ら運転してグラウンド用の土を耕した。土を運ぶためのトラックが何台も往来する。細かな部分はシャベルと鍬を持って自ら地面を掘り返した。沖縄水産へ赴任してからの2年近くは、汗と泥まみれになってグラウンド作りに没頭した。

「飲酒、喫煙は当たり前」誰もが恐れたヤンキー校の実態

 今から40年以上前、沖縄水産は誰もが震え上がる「ヤンキー高校」としての悪名が轟いていた。共学だが生徒のほとんどが男子。その多くが各中学校で番を張っていた輩で占められ、パンチパーマにヒゲを生やし、カチャカチャと音が鳴るようなエナメル靴で闊歩する。飲酒、喫煙は当たり前。卒業式には校門前に黒塗りのベンツが並び、ドラフト会議のように卒業生が乗せられ、任侠界へとデビューしていく……。そんな都市伝説が流布されるほど、ワルの巣窟とされていた。

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 この時代を知るOBに話を聞くと、80年代に大ヒットした『ビー・バップ・ハイスクール』の映画を地でいった感じだと例える。中間徹(仲村トオル)と加藤浩志(清水宏次朗)が、中山美穂演じるヒロイン・泉今日子をめぐってケンカと恋に青春をかける不良映画の金字塔だ。しかし残念ながら、沖縄水産には中山美穂のようなマドンナはいなかった。

 中学生が沖縄水産を受験するために下見に行くと言えば、「中学生があのあたりに行けば恐喝されるか、殴られるかのどっちかだぞ!」と親戚連中から必死の形相で止められる。

 校門から校舎までの間にタバコの吸い殻が落ちているのは日常茶飯事で、沖縄水産の不良生徒が国際通りを歩けばみんなが避けて通る。通学に使われるバスは、満員状態でも沖縄水産の指定席である後部座席だけはいつも空いていた。当時、知念高校に通っており、現在は糸満高校の野球部部長を務める新垣隆夫はこう証言する。

「沖水行きのバスとは反対方向でよかったぁと胸をなで下ろしましたね。もし一緒のバスだったらどうなっていたことか(笑)」

【次ページ】 OBの証言「栽先生が沖縄野球の基礎を作った」

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