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「ヘルメット破壊で場内騒然」フルイニング出場中の阪神・金本知憲に頭部死球…巨人・木佐貫洋に“鉄人”が放った仰天の一言「次にオレと対戦する時は…」
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佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKYODO
posted2025/07/01 11:03
阪神・金本に頭部死球を投じてしまい顔面蒼白のままマウンドを降りる巨人・木佐貫(左)
翌日の試合前、右腕は阪神サイドを訪れて金本に謝罪した。
「本当に申し訳ありませんでした」
長身をくの字にして頭を下げる若者に、「鉄人」はあっけらかんとした笑顔で「気にするな」と声をかけ、こんな言葉を続けた。
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「前に俺の頭に当てたピッチャーは、そこから調子を崩したという話を聞いたことがある。でも、お前はそうなるなよ。インコース投げられなくなるなんてつまらんで。次にオレと対戦するときは、またインコースに投げてこい!」
死球をきっかけに陥った“イップス”
その言葉を聞いた木佐貫さんは、ひれ伏すような思いだったという。
「痺れました。これが金本さんか、みんなが“アニキ”って言うのはこういうことか、と。超一流選手の凄さをあらためて感じました」
金本の驚異的な心身の強さでことなきを得たが、「鉄人」が危惧したことはやはり現実となって木佐貫さんを苦しめた。折からの不調もあり、危険球退場処分の翌日に出場選手登録を抹消。復調を目指したが、打者の頭部に当ててしまったことがトラウマとなり、“イップス”のような状態に陥ってしまったのだ。
「引っ掛けて当ててしまったので、そこからは指先の感覚が何かおかしくなってしまったんです。また当ててしまったらどうしよう、という怖さもありましたし、投げる時の感覚があやふやになるというか、ズレが出てしまう」
最後に向かった“原点”のグラウンド
感覚を取り戻すために様々なことを試し、球数も投げ込んだ。メカニックの部分だけでなく、メンタル面でも試行錯誤したが、克服することは難しかったという。苦闘の末、木佐貫さんが向かったのは“原点”の場所。ある日、居ても立ってもいられない思いに駆られて母校の亜細亜大グラウンドへと車を走らせた。
「グラウンドに行って、原点に戻って一からやり直そうと思ったんです。私が学生時代はコーチだった当時の生田(勉)監督のもとを訪ねて『金本さんの頭に当ててしまって、指先の感覚がおかしくなってしまいました』と悩みを打ち明けました。見栄を張るとか、強がることをせずに、今の自分の苦しい状況、辛い思いをさらけ出したんです。本当に藁にも縋るような思いだったと思います」


