伝説の「猪木－アリ戦」から49年…あの試合は“ガチンコ”だったのか？ モハメド・アリが語っていた“肉声テープ”から読み解く「世紀の一戦」のナゾ 

　前半の部分でアリが言っていること。それは「猪木はリアルファイトを望んでいるらしいが、これは当初からの予定通り、エキシビションだ。本当らしく見せかける試合はできない。観客にエキシビションであることをはっきり伝える必要がある」というものだった。

　来日後のアリは、いつものトラッシュ・トークで猪木を「ペリカン野郎」と口汚く罵倒し続けたが、このテープの中では別人のような冷静さで、切々と試合のあるべき姿を訴えている。おそらく、それが演出の必要のない場面でのアリの「真の人間性」なのだろう。

《イノキも俺も、この試合の話に合意する前から、公の場に出なくてはならなかった……イノキはテレビに出なきゃならず……俺もテレビに出て……いろいろな記者会見でデモンストレーションをやるということ……ボクサーとレスラーが真剣にやり合うとしたら、どんな試合になるかという話が公になった。

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　そして……イノキとマネージャーたちはリアルなマッチを望んでいるらしいが……俺は、全力で彼を殴らないことを観客に知らせておきたい……イノキも全力でこっちの腕をネジあげたり、ほかの技でそういうことはしないと……われわれは意図的な……はしないと。そのことはみんなにも知らせておく必要がある、そうじゃないか？》

試合前の記者会見でおどけるアリ。一方で、テープの中の声はいたって冷静だった　©JIJI PRESS

アリの口から「リハーサル」という言葉が…

　アリはあくまで試合がエキシビションであることを強調する一方、「台本通りにショーを演じる」ことへの抵抗感を語っている。

《リハーサルでは、結果は……イノキが勝つということで……レフェリーは俺に早々と退場を命じるという結末になっている。しかし、イスラム教のムスリムで、全世界の人たちに信頼されて尊敬を得ている人間として……最初になにかに巻き込まれること、つまり公然とイカサマをやったり、腐った試合にかかわったりすることはできない。本当らしくみせて、そうでない試合には関わりたくない》

　ここでアリは「リハーサル」、つまりすでにこの時点で試合の台本が決められていたことを示唆している。だがその一方で「本当らしくみせて、そうでない試合」には関わりたくないとも語る。

　エキシビション（＝リアルではない）での試合を主張しながら、「そうした試合には関わりたくない」というのは矛盾しているが、ここからさらに揺れるアリの心情に迫ってみたい。

＜次回へつづく＞