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「真っ先にアントニオ猪木さんに報告したい」念願のIWGP女子王座獲得…Sareeeは“猪木の墓前”で何を伝えた?「今のプロレスにも戦いはありますよ」
posted2025/06/24 17:22

Sareeeは總持寺の猪木家の墓を訪れて、IWGP女子王座に就いたことをアントニオ猪木に報告した
text by

原悦生Essei Hara
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Essei Hara
SareeeはIWGP女子のベルトを肩に横浜市鶴見区にある總持寺の参道を歩いていた。強烈な夏の日差しが照り付けていたが、Sareeeの足取りは軽やかだった。
「昨夜はアドレナリン全開で、あまり眠れませんでした。うれしくて。まだアドレナリンが噴き出したままです。このベルトをどう刺激的なものにするかで頭がいっぱいでした」
Sareeeは6月21日、スターダムの国立代々木競技場大会のメインイベントで朱里を下して、念願のベルトを巻いた。
「猪木さん、今のプロレスにも戦いはありますよ」
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「真っ先にアントニオ猪木さんに報告したい」
Sareeeが巻いたのはもちろん女子のベルトではあるが、IWGPの名の付く王座は格別のものがあった。1980年代に世界最強を求めてIWGP(インターナショナル・レスリング・グランプリ)というコンセプトを持った猪木の気持ちが感じられるものだからだ。
3月にSareeeは朱里と30分を引き分けている。まだ、この時、朱里はチャンピオンではなかったが、4月に岩谷麻優からベルトを奪っていた。岩谷に一度挑戦して負けているSareeeは「岩谷から取りたい」という強い思いがあったが、それは叶わなかった。
双方の気迫と悲壮感と意地が交錯した試合は、十分に戦いを感じさせるものだった。
32分49秒、Sareeeはこの日5発目の裏投げを朱里の手首をつかんで放った。そして、3カウントを奪った。
Sareeeは桶の水を猪木家の墓石にかけて、花を手向けると手を合わせた。
猪木という偉大で特別な存在、それを意識しながらSareeeは目を閉じた。猪木の銅像とは背中合わせだ。
「同じ時代にプロレスラーとしてやることはなかったですが、猪木さんには小さいときからずっと感銘を受けてきた。IWGPを私が巻いたからには、その名に恥じないように世界最強になりたい」
猪木がよく口にしていた「戦い」という言葉をSareeeは反芻した。
「猪木さん、今のプロレス界にもちゃんと戦いのプロレスはありますよ、とお伝えしました。それを私がこの先もしっかり守って、これからのプロレス界に繫げていきます、と誓いました」
かつて猪木が池上本門寺にある師匠・力道山の墓前にベルトを持って報告したように、Sareeeも猪木に報告した。