伝説の「猪木－アリ戦」から49年…あの試合は“ガチンコ”だったのか？ モハメド・アリが語っていた“肉声テープ”から読み解く「世紀の一戦」のナゾ 

　また、もし石膏入りのグローブでパンチを打てば、アリ自身が拳を痛める。「現役王者だったアリのトレーナーが、そんなことを許すはずがない」というボクシング関係者たちの指摘はもっともだ。

　猪木が「リング上に寝たまま戦う」という作戦を採用した結果、試合は非常に退屈なものになり、試合後に猪木は大バッシングを浴びた。

　当時の新間氏は、猪木と新日本プロレスを守るため、いかにアリ側が無理難題を押し付けてきたか、猪木がそうせざるを得なかったかを対外的に説明する必要があった。そう考えれば「鉄板」や「石膏」の話が創作される動機が存在したことになる。

貴重な物証…アリの「肉声テープ」

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　当事者の新間氏が語れば語るほど「猪木－アリ戦」の謎は深まっていく――そんなパラドックスを解決する方法のひとつが、客観的な物証と報道記録（特にアリ側の関係者の証言）の発掘だ。その意味において、この「肉声テープ」の存在は、現存する貴重な証拠のひとつと言えた。

アリの肉声が入ったテープ　©Hiroki Kakehata

　アリの肉声がいつ、どのように収録されたのかは新間氏も正確なところを把握していなかった。

　ただ、ひとつのヒントが音声の冒頭に隠されている。インタビュアーと思われるアメリカのメディア関係者が、アリと電話で会話をしている内容がある。

聞き手　どうも。

アリ　ああ、つながったな。

聞き手　なにも問題ありませんか。

アリ　ああ。

聞き手　わかりました。明日はいっしょに東京へ行くことになっていて……そこで、シミズ……いや、イノキと彼のマネージャーに会いますよね。

アリ　そうだ。

聞き手　それで……もしよければ……われわれに指示してもらいたいんです……どんなかたちを望んでいるかを、われわれに教えてください。

アリ　わかった……聞こえているか？

　このなかでアリは「明日、東京へ行き猪木と会うか」という確認に対し「そうだ」と答えている。そうだとすれば会話が収録されたのはアリが来日した6月16日（日本時間）の前日、15日だ。「シミズ」という人物は不明だが、聞き手が新間氏の名前と言い間違えた可能性は十分に考えられる。

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