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格闘技PRESSBACK NUMBER
伝説の「猪木-アリ戦」から49年…あの試合は“ガチンコ”だったのか? モハメド・アリが語っていた“肉声テープ”から読み解く「世紀の一戦」のナゾ
text by

欠端大林Hiroki Kakehata
photograph byJIJI PRESS
posted2025/06/26 11:02
今から49年前に行われたモハメド・アリとアントニオ猪木の異種格闘技戦。試合前のアリの言葉から読み解ける、あの試合の「真実」とは?
その一方で、新間氏によって語られてきた内容は、評価が難しいとされてきた部分があった。その理由は、時代によって証言内容の核心部分が揺らいだり、当時のメディアから試合内容を「世紀の凡戦」と酷評されたことで、猪木を擁護するための意図的な情報操作をした疑いがあったからである。
新間氏は一貫して「あの試合はリアル(真剣勝負)だった」「当初、アリはエキシビションのつもりで来日した」という趣旨の説明をしている。この2点については、少なくとも有力な関係者の間で異論はない。
もっとも、なぜワークのはずだった試合がリアルに変わったのか。
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そして猪木はどの段階で「リング上で寝たまま戦う」という作戦で行くことを選択したのか。
そのあたりは諸説あれど、いまも明確な結論は出ていない。
試合直前まで紛糾したルール問題について、新間氏は当初「猪木が真剣勝負で挑む考えを曲げないことが分かり、アリ側はさまざまな禁止事項を後付けで要求し、がんじがらめのルールを作り上げた」と主張した。1998年に出版された猪木本人による著書『猪木寛至自伝』(新潮社)にもその内容に合致する記述がある。
ところが2002年、週刊誌上で猪木を糾弾する連載を始めた新間氏は「猪木が言う『がんじがらめのルール』は存在しなかった」「実際のルールは『両者正々堂々と戦う』という前提で、急所への攻撃禁止、目の中に指を入れてはいけないなど、現在のプロレスでも当たり前のルールにすぎなかった」(『アサヒ芸能』2002年1月31日号)などと、従来の言説を翻す内容を語っている。
こうした主張の変遷は、証言内容全体の信憑性にかかわってくるものだ。
シューズに鉄板、グローブに石膏…疑問視される新間の言葉
また、新間氏は「難題をふっかけるアリに対抗するため、リングシューズに入れる鉄板を用意して猪木に使用を提案した(実際には使用せず)」「アリは軽い4オンスのグローブのなかに石膏を注入しており、試合後の猪木の額には大きなコブができていた」とも語っていたが、これらについては後年、関係者の間で「リスクが大きすぎてあり得ない話」と疑問視されている。
鉄板入りのシューズで強烈なスライディングキックを打てば、アリは一発で異変に気付くであろうし、それがバレたら猪木は「世界一の卑怯者」「至宝アリを壊した男」として、プロレスラー生命を絶たれていただろう。

