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「ドラフト指名90人中88番目」でプロ入り…横浜でくすぶっていた木村昇吾がトレードで転機をつかむまで「持病で食べられず…1回の食事に2時間」
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二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJIJI PRESS(L)/Shiro Miyake(R)
posted2025/06/25 11:05
横浜入団会見での木村昇吾と、45歳になった現在の木村。実は若いころに食事がとりづらい持病で体力をつけられなかったという
走塁でつかみかけたきっかけ
2005年まで二軍の打撃コーチを務めた大久保秀昭に「一軍に行くには3つ武器を持て」と言われたことを胸に、まずは自信があったショートの守備と走塁をより一層磨こうとした。それでもきっかけをつかめないまま時間を過ごすなか、走塁においては以前日米野球で目にしたア・リーグの盗塁王カール・クロフォードがヒントになった。
「肩を上げて走って、不格好なんですけどメッチャ速い。ずっと気になっていて、2007年の二軍キャンプでクロフォードの映像を取り寄せてもらったんです。ビデオルームにこもって、繰り返し見ました。ハッと気づかされたのが、1で構えて、2で走るんじゃなく、1でもうスタートを切ってる。これは自分のものにしたいと思いました」
構えながら走る。木村は右手を二塁ベースに向かって出し、空気をつかむようにして体ごと持っていくスタートを会得する。これによって、ファームの試合でほぼすべて盗塁を成功させるまでになる。
実は逆流性食道炎だった
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一つ光が差すと、暗雲の覆っていた空がどんどん晴れ上がっていく。体調面でも嬉しい変化があった。この年就任した牛島和彦監督から紹介を受けた医師によって、実は胃酸が逆流する「逆流性食道炎」だったと診断され、投薬治療によってしっかりと食べられるようになる。愛妻の協力もあって、食事に対するストレスが薄らいでいった。
この年ダメなら、クビになることは覚悟していた。2つ下の後輩、藤田一也がレギュラーに近づいている一方で、同じポジションで大卒のドラフト11巡目の自分はきっと5年目が区切りになるだろう、と。ただ不思議と焦りはなかった。体の不安が消えたことで、ひと皮むけそうなきっかけを掴みつつあった。
〈全4回/2回目につづく〉

