プロ野球PRESSBACK NUMBER
「ドラフト指名90人中88番目」でプロ入り…横浜でくすぶっていた木村昇吾がトレードで転機をつかむまで「持病で食べられず…1回の食事に2時間」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJIJI PRESS(L)/Shiro Miyake(R)
posted2025/06/25 11:05
横浜入団会見での木村昇吾と、45歳になった現在の木村。実は若いころに食事がとりづらい持病で体力をつけられなかったという
ノーアウト一、二塁で指示がバントだったため、伊良部が目の前にいても緊張はなかった。サード目がけて確実に転がしたら、結果的にお見合いとなって内野安打になったのだ。
「一塁コーチが辻(発彦)さんで、初ヒットだからと記念ボールにしてくれて、『良かったな』と言ってくれたんです。なぜかそこで足がガタガタって震え始めて、その先自分がどうなったのか覚えていないんですよ(笑)」
キャンプから目の前のことを必死でやってきただけ。プロ初安打を現実として受け入れた途端に、体が反応したというわけだ。
食事が摂れない持病で体力不足に陥る
ADVERTISEMENT
だが、プロの世界はそう甘いものではない。結果を残せないまま2カ月後には二軍行きとなり、体力の壁にぶつかってしまう。
「大学のときはほとんど週末だけだった試合が、プロになると二軍でも毎日ある。遠征が多いし、練習して試合してって繰り返しているうちに、いつの間にか体にキレがなくなってきて、普通に捕れていたゴロまでミスってしまうようになって。力が入らないんですよ、体力がスッカラカンになっていましたから」
極度の消耗には、大きな要因があった。大学時代から、食べるとどうしても気持ち悪くなってしまうという原因不明の症状を抱えていた。
「チームの食事会場に行くと、最初から最後までいました。2時間くらい掛けてゆっくり食べなきゃいけなかった。苦痛でしたね。お腹は空いているのに、食べると気持ち悪くなる。戻してしまうこともあって、もう自己嫌悪ですよ。先輩たちからもそれをイジられたりするんで、食事会場に行くのも嫌でした。
病院で精密検査を受けても理由は分からなくて。食べられないから体力もつかないし、体も強くなっていかない。お腹がスカスカの状態で夜間も練習するんで、フラフラになりました。すべて終わったら近くに弁当を買いにいくんです。自分の部屋だったら、時間を気にしないで本当にゆっくり食べられるので」

