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プロ野球PRESSBACK NUMBER
田中正義にいったい何があった? 新天地・日本ハムで激変…窮地で思い出す新庄剛志監督の言葉「全部真っすぐで、ホームラン打たれてこい!」
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2025/07/01 17:01
オールスターファン投票のクローザー部門で1位となった日本ハム・田中正義。新天地で覚醒したその理由とは
5月7日、ゴールデンイーグルス戦では同点の9回表に登場すると三者連続三振で流れを引き寄せた。この快投でサヨナラ勝ちに導き、今度はプロ初勝利を挙げた。
そうやって軌道に乗り、抑えとしての地位を確立していった。
田中は150kmを超える速球を武器として、その投げっぷりから豪快な印象を与えるが、ホークスの頃から理想の投球フォームを追求してきた。
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「プロに入ってから、こう投げたいというところはずっと一貫しています。なるべく動きのロスがない効率的なフォームは、1年やるうえですごく重要な部分ですね。いかに、引退するまで、そこに近づいていけるかだと思うんです」
1年間フルに戦うのは田中にとって初めてだった。長丁場のシーズンにおいて自らの失敗でチームが敗れ、悔しさを味わったことは一度や二度ではない。
自らの力を引き出してくれた新庄とは普段、それほど話す機会は多くないという。
だが、いざ窮地に陥ると、やはり新庄の言葉を聞くことになるのだ。
「もう気にしないで。次、絶対にやり返せ」
不思議と前を向けるのだという。
「ホームランを打たれてこい!」
23年6月9日、エスコンフィールドでの阪神タイガース戦でもこんなことがあった。
4点リードの9回。田中は安打と四球で2死一、二塁のピンチを迎えた。
一発のあるヨハン・ミエセスとの対戦である。それでも、田中は意外と冷静だった。たとえアーチを許してもまだ1点リードしているから……そう考えていると、ベンチから新庄がマウンドにやって来た。監督就任以来、マウンドに来るのは初めてのことだった。
「全部、真っすぐでいって、ホームランを打たれてこい!」
田中はそのゲキを聞いて奮い立った。迷いなく腕を振り、球威で押し切って中飛に抑えた。新庄にとっては古巣阪神から初勝利。指揮官も守護神も、肝が据わっていた。
新庄は逆境に立たされても平静を保つ。指揮官の振る舞いは、ナインに伝わるものである。田中は「監督はどんなにチーム状況がよくない時でも常に一定なんです。そこはビックリしました。挨拶しても、笑顔で返していただけますし、優しい監督です」と明かした。
いつのまにか、怖々と投げる田中の姿は消えていた。
24年もクローザーの地位を死守した。
新庄から「もうちょっと、いけた?」
田中の存在感がひときわ際立ったのはレギュラーシーズンを2位で終えた直後、マリーンズとのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージである。
1勝1敗で迎えた10月14日の第3戦。過去2戦と同じように緊迫した展開になっていた。2−2で迎えた5回表、先発の北山亘基が2死を奪ったあと、4番のネフタリ・ソトを迎えると新庄が動いた。

