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危険な自爆で頭を強打「記憶が飛んだ」それでも辻陽太からベルトを奪い…ゲイブ・キッド「酒はやめる。会社を背負うんだ」新王者の言葉が“響く”理由
text by

原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2025/06/18 17:03
辻陽太を倒しIWGP GLOBALヘビー級王者となったゲイブ・キッド。「新日本プロレスを牽引する」と宣言した
「ファンが見てどの試合がメインに相応しかったか」
ゲイブは哲学者のような物言いをする。
「何か成し遂げようとするヤツがいかにつまずいたか、どうすればもっとうまくできたかなんて、そういうことを指摘することは重要なことではないんだ。栄誉とは実際に戦いの場に立った人たちだけが、手にすることができるものだ。泥と汗と血にまみれ、勇敢に戦い、何度も何度も挑戦しても、あと一歩届かなかった。そんな人だけが最後に手にすることができるものだ。なぜなら失敗や敗北のない努力なんてこの世に存在しないからだ。最後に勝利を手にするのは、あることを成し遂げようと努力を積み重ねてきた者だけだ。オレはこの世界に情熱を持ち、プロレスに貢献して、価値ある目的のために全力を尽くすことができる。仮にその挑戦が失敗しても、その挑戦こそが既に素晴らしい成果だと言えるだろう。勝利も敗北も知らない冷めた目で外から一歩引いて見ているだけの臆病者には、決してオレたちと同じ戦いの場に立つ人間になることはできない」
ゲイブは現在を感じていた。
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「もしここにいるオマエらがオレのことを信じているなら、黙ってオレについて来い。オレは1月22日、新日本プロレスが作ったある写真イメージを見た。新しい世代の中で誰がこの新日本を引っ張っていくのか? そんな内容だった。その写真にはヒクレオや辻、HENARE、上村優也……そういうヤツらが載っていたけど、オマエらに宣言しておくが、新日本をこれから引っ張っていくのはそんなヤツらではない。ここにいるオレ、ゲイブ・キッドが新日本を率いてもっともっと大きくしてやろう。オレはオレ自身のことをずっと信じ続けてきた」
ゲイブは辻に目をやった。
「勘違いしてほしくないのはここにいる辻、オレはオマエのことをある程度リスペクトしている。一緒に寮に住んでいたこともあるし、一緒に練習して、一緒に移動の時間を過ごしたこともある。オフィスからはオレよりもオマエの方が推されているような感じも受けるけれど、オマエは現にIWGPという王座に挑戦してそれを勝ち取ることができた。辻、ファンに誰がこの先の新日本を率いていくかというのを見せつけてやろう」
ゲイブは試合前に辻に呼びかけた。二人の試合はセミファイナルで行われたが、ゲイブは言った。
「試合順なんてオレにとって関係ない。ファンが見てどの試合がメインに相応しかったかだ……。それは言うまでもないだろう」
ベルトはついにゲイブに移動したが、辻とゲイブの“数え唄”は熱いものだった。


