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危険な自爆で頭を強打「記憶が飛んだ」それでも辻陽太からベルトを奪い…ゲイブ・キッド「酒はやめる。会社を背負うんだ」新王者の言葉が“響く”理由

posted2025/06/18 17:03

 
危険な自爆で頭を強打「記憶が飛んだ」それでも辻陽太からベルトを奪い…ゲイブ・キッド「酒はやめる。会社を背負うんだ」新王者の言葉が“響く”理由<Number Web> photograph by Essei Hara

辻陽太を倒しIWGP GLOBALヘビー級王者となったゲイブ・キッド。「新日本プロレスを牽引する」と宣言した

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原悦生

原悦生Essei Hara

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Essei Hara

 ゲイブ・キッドはコーナーに上がると、これ以上ないというくらい高く飛んだ。トップロープにもたれて伏していた辻陽太の背中めがけて飛んだ、はずだった。

 だが、それは辻をほんの少しかすめただけで、辻を飛び越えてしまったのだ。ゲイブは背中から自らの体をリングに叩きつけてしまった。ゲイブは超特大の受け身を取ったことになるが、同時に頭を強打していた。

「酒はやめる」“浴びるほど飲んでいた”男の覚悟

 アドレナリンが噴出していなかったら、試合は「自爆」という形で終わってしまったかもしれなかった。それこそ前日にゲイブが口にした「クレイジーな試合」になっていただろう。

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 ゲイブはそのダメージとぶっ飛んだ記憶の中で本能のままに戦った。

「トップロープからのセントーンはもう封印しないとな。バカげたことをした」

 どうにかIWGP GLOBALヘビー級王座を戴冠したゲイブは自らを戒めるように言った。

「あのセントーンで記憶が飛んでしまった。後はおぼろげな記憶しかない。すごい旅路だったよ。これは母に、そして故郷の友人に捧げる。オレを信じてくれたみんなに捧げる。オレは最高のプロレスラーかもしれない。事実、オレは最高のプロレスラーだ。でもオレは人間でもある。人にはそれぞれ、毎日苦しいことがある。今日の観客の中にも、オレよりも大変な思いをしてきた人が必ずいると思う。この2、3年は人生で一番辛い時期だったな」

 ゲイブの心を苦楽が交差していた。

「でも、そんなことは何一つ関係ない。今、重要なことはオレが王者であるということ。この会社(新日本)を牽引するのは誰かという答えを出した。オレはずっと分かっていた。野毛の道場を初めて訪れた日から、LA道場へ行った時から、オレはずっとその存在がオレであることを知っていたよ」

 ゲイブは束の間のほっとした喜びを感じ取っていた。

「これ以上の瞬間はない。見てる人にもオレの今の気持ちを味わってほしい。これは純粋な喜びの気持ちだ。いろんな苦難もあって、いろんな辛い体験をしてきたけど……オレはやった。自分で自分を褒めてやりたい」

 ゲイブは乾杯用に置かれたビールに手を伸ばしかけたが、思いとどまった。

「オレにはもうこれは必要ない。酒はやめる。オレには責任があるんだ。自分に対してでもなく、WAR DOGSに対してでもない。オレはこの会社を背負うんだ。オレは頂点に立つ男だ。新日本プロレスを牽引していくんだ」

【次ページ】 「今、今、今、20年代は辻陽太とゲイブ・キッドだ」

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