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「もう倒しにいくしかない」堤聖也vs比嘉大吾「史上最高の3分間」はなぜ生まれたのか…ボクシング界で語り継がれるであろう“伝説の第9ラウンド”
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/06/18 06:01
堤聖也(右)vs.比嘉大吾(左)はボクシング史上に残る伝説の一戦となった
堤「ジャブの差し合いでも負けたくなかった」
堤は昨年10月、長年目標にしてきた「花の'95年組」の同学年、井上拓真を下して悲願の世界タイトルを獲得した。対する比嘉は昨年9月、およそ6年ぶりとなる世界戦でWBO王者の武居由樹に惜敗。直後に一度は引退を宣言したものの、再び世界タイトルマッチのリングに戻ってきた。
両者は'20年10月に対戦して引き分け、今回のタイトル戦が約4年半ぶりのリマッチだった。スパーリングの経験も何度かあり、互いの手の内もよく知っていた。実力伯仲の試合は戦略と対応力がものをいう。どちらの陣営もまずは先手を取りたかった。
堤サイドは比嘉がアグレッシブに出てくると予想していた。ところが蓋をあけてみれば、比嘉はジャブを軸にして慎重に距離を取り、打ち合いを注意深く避けた。王者の裏をかく形となったのだ。堤は「ジャブの差し合いでも負けたくなかった」と欲を出したことを悔やむ。ジャブで差し勝てなければ別プランに素早くシフトすべきだったが、後手に回って修正がきかなかった。
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第8ラウンドが終わった時点で堤本人も劣勢を意識していた。だから石原から「倒さなければ勝てない」とはっきり言われ、逆に吹っ切れた。ピンチを迎え、後がない状況で底力を発揮する強さが堤にはある。裏を返せば追い込まれるまでなかなかエンジンがかかりにくい。それが堤というボクサーの魅力でもあった。
「振り切ってきます」
伝説の第9ラウンドが始まった
石原のアドバイスを静かに聞いていた堤が決然とした口調でそう答えた。今後ボクシング界で語り継がれるであろう“伝説の第9ラウンド”はこうして始まった。
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