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野球クロスロードBACK NUMBER
なぜ大手メーカーが続々プロ野球事業「規模縮小」なのか?…東大卒元プロ選手が語る“野球人口減少”への処方箋「“やせ我慢の経済学”をやめるべき」
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byNumberWeb
posted2025/06/11 11:02
東大→ロッテで活躍した小林至さん。現役引退後はソフトバンクのフロントとして球界再編などでも活躍。現在は桜美林大学で教鞭を執る
――一流選手の契約の終了と「野球離れ」との因果関係はあるのでしょうか。
小林 間接的ではありますが、あると考えます。かつては「この選手と同じグラブを使いたい」といった憧れが、野球を始める動機にもつながっていました。しかし今は、メーカーも契約選手の数を絞り込んでおり、プロ野球の一軍レギュラーでも年間1000万円を超えるような契約料が出るケースは稀です。
ゴルフやテニスのように、個人で高価なギアを買い支える富裕層の市場があるわけではありませんし、用具メーカー側としても費用対効果を冷静に見ざるを得ない。結果として、プロ野球選手の露出が減ることが「野球離れ」に拍車をかけるという側面は否定できないでしょう。
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――スポンサー料が安いのはなぜでしょう。
小林 理由は明快で、「道具が売れないから」です。広告というのは基本的に投資対効果で決まります。野球選手を広告塔にしても、その分、用具が売れなければ意味がない。しかも野球はチームスポーツで、個人のスター選手を中心にプロモーション展開するのが難しい面があります。
その点、バスケットボールはマーケットがグローバルに広がっているうえ、個人のブランド価値が高まりやすい競技です。マイケル・ジョーダンの「エア・ジョーダン」シリーズが好例で、競技人口も多くスニーカーという日常使いされる商品カテゴリーで大成功を収めた。野球はグローブやバット、スパイクといった特殊装備が中心ですから、そもそものマーケットの広がり方が違う。ここに、野球メーカーの構造的な苦しさがあります。
――とはいえ、野球道具を買う立場からすれば選択肢が多いほうがいいですし、それはプロ野球選手としても同じだと思いますが。
小林 メーカーが減ったからと言っても、プロレベルならお金さえ払えば専門の用具は手に入る。なので、そのまま死活問題にはならないんです。
昔は「用具提供に際限なし」だったが…?
――メーカーとスポンサー契約をしても、用具が提供されるわけではない?
小林 提供自体はされます。ただ、近年多いのは「VIK(Value In Kind)」と呼ばれる契約形態で、現物支給を含んだスポンサーシップの一種です。たとえば、チームと1億円の契約を結んだ場合、そのうち一定割合がバットやグローブなどの用具提供に充てられます。
そして提供上限を超えた場合には、卸価格など割安な条件で追加購入できるという仕組みです。選手個人に対しても同様の形で支給されるケースが多く、金銭的報酬よりも「現物+割引供給」が契約の主眼となっていることが一般的です。
――小林さんの動画では「自分の現役時代の一流選手は、用具提供に際限がなかった」というような解説をされていましたが、現在ではシビアになっているんですね。
小林 動画でも触れていますが、私が現役だった1990年代、たとえば当時契約していた『玉澤』というメーカーは、規模としては決して大手ではありませんでしたが、それでも年間3~4個のグローブを提供していただいていました。
また、当時のセ・リーグは、巨人戦が毎日のように地上波で全国放送されていましたから、レギュラークラスの選手には宣伝効果があると見なされていた。野球用具にとどまらず、プライベート用のゴルフ用品などまで提供されることも珍しくありませんでした。ある選手が「パ・リーグに移籍したら、急に用具が届かなくなった」とこぼしていたほどで、それだけセ・リーグの“広告媒体”としての価値が高かったということだと思います。

