- #1
- #2
野球クロスロードBACK NUMBER
なぜ大手メーカーが続々プロ野球事業「規模縮小」なのか?…東大卒元プロ選手が語る“野球人口減少”への処方箋「“やせ我慢の経済学”をやめるべき」
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byNumberWeb
posted2025/06/11 11:02
東大→ロッテで活躍した小林至さん。現役引退後はソフトバンクのフロントとして球界再編などでも活躍。現在は桜美林大学で教鞭を執る
――今はそれほどの商業価値がなくなってきた、ということなんでしょうか。
小林 私が現役だった90年代当時は、マーケティング価値が高いスポーツといえば、野球が圧倒的でした。メディアもテレビ・新聞・雑誌・ラジオと限られており、そこに広告を載せられるプロ野球選手の価値は非常に大きかった。
ところが今では、サッカーやバスケットボールなど多様な競技に注目が集まるようになった。加えて、インターネットやSNSの普及で、影響力のある個人が情報発信できる時代になりました。プロ野球選手が「広告塔」として独占的な地位にいた時代とは、構造が大きく変わってきたと思います。
ADVERTISEMENT
――野球用具を取り扱うメーカーが少なくなることで懸念される現象はありますか?
小林 競合が減れば、当然ながら価格競争も働きにくくなりますから、結果的に用具の価格は上がっていく可能性があります。特にジュニア層やアマチュア選手にとっては、用具の高騰が野球離れの一因になりかねません。
――少年野球で使用されるバット「ビヨンドマックス」が3万円ほどで、その上位互換となる「ビヨンドマックスレガシー」に至ってはおよそ4万5000円と、小学生が使う道具としてはあまりにも高すぎる。そのことで、一般家庭が「野球は金持ちのスポーツ」との認識を強めてしまえば野球離れが加速し、競技人口減少の原因にもなりかねません。
小林 おっしゃる通りで、競技人口の維持・拡大という観点からは、アクセシビリティが非常に重要です。初期費用が高い、練習場所が少ない、チームを探すのが難しい——こうした障壁があると、どうしても保護者や子どもにとっては「ハードルが高いスポーツ」と映ってしまいます。
野球は「コスパ」「タイパ」が悪い!?
――日本野球協議会が2022年に発表した統計によると、小学生の軟式野球「学童野球」の競技人口が、10年の29万6480人から22年には17万309人と激減しています。出生数という分母が減っていることもありますが、大きな問題ではないでしょうか。
小林 出生数の減少という背景はあるにせよ、それ以上に野球という競技の「コスト」と「効率」の問題があると思います。用具代だけでも、バット・グローブ・スパイク・ユニフォームと揃えると数万円単位の出費になります。他の競技に比べてギアにかかる負担が大きく、費用対効果の観点からは敬遠されやすい。さらに、タイムパフォーマンス……つまり「時間あたりの体験価値」という観点でも、現代の親や子どもの感覚には合いにくい部分があるかもしれません。
たとえば、サッカーやバスケットボールは、試合中ずっと動いている実感があり、参加感や達成感も得やすい。一方で野球は1試合に出場しても、打席が回ってくるのは多くて4回前後。守備機会もポジションによって偏りがあり、ゲームの進行も時間制ではないため、親にとっても拘束時間が読みにくいという一面があります。もちろん「観るスポーツ」としての野球の面白さは、今も非常に魅力的です。ただ「するスポーツ」としては、初期投資や時間投資に対してリターンが得にくいと感じられやすく、それが野球人口減少の要因のひとつでしょう。

