- #1
- #2
大相撲PRESSBACK NUMBER
「朝青龍にプロ初黒星をつけた男」ハリウッド映画に出演した元力士が明かす18歳の朝青龍“超負けず嫌いな言い訳”「俺はさ! ちょっと熱があって…」
text by

雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by写真提供:田代良徳
posted2025/06/07 11:03
元大相撲力士から転身し、ハリウッド映画にも出演した田代良徳。力士時代の四股名は東桜山勝徳
相撲部屋に入門した新弟子たちは、最初の半年間は国技館の敷地内にある相撲教習所に通うことになる。そこで相撲の基礎のほか、歴史や甚句などを学ぶのだ。
玉ノ井部屋に入門した田代も早起きして、当時は足立区梅田にあった部屋から電車を乗り継いで両国まで通った。まだちょんまげは結えなかったが、浴衣を着て出かけると、それだけで自分が特別な人間になったようだった。
入門者が減った近年では考えられないことだが、田代たちが入った次の3月場所で はさらに100人以上の新弟子が加わり、狭い教習所はぎちぎちに膨れ上がっていた。
ADVERTISEMENT
教習所の朝は点呼から始まる。国技館の敷地内を3周ランニング。実際に相撲も取る。相撲は体重無差別の競技であり、プロの世界では年齢も関係ない。体のできあがっていない中卒の未経験者が、田代のような経験者といきなり本気でぶつかるのは難しいし、危険も伴う。そのため、稽古土俵はレベルに合わせてABCの3段階に分けられていた。
A土俵は少数精鋭のトップレベルが集まる。田代や高見盛のように学生相撲で実績のある者、教習所の教官を務めている三段目や幕下クラスの兄弟子たち、韓国相撲のチャンピオンまでいて、そんじょそこらの新弟子ではとても入り込めない空間になっていた。
驚くほどの「負けず嫌い」
その中でひときわ異常な熱を発していたのが、朝青龍である。今にも噛みつきそうな鋭い眼差し、ふんふんと鼻息荒く、全身からいつも湯気が立ち上っていた。前相撲でもびっくりさせられたが、その稽古ぶり、負けず嫌いのほどは、明大の猛稽古で鳴らしたはずの田代でも驚くほどだった。
まずは朝一番のランニングから常に先頭でゴールしようと躍起になっている。腕立て伏せでは誰かが50回やったら60回、70回なら100回、110回なら200回とわかりやすく意地を張った。稽古の番数でも同じで、A土俵の面々がみんなくたくたになっているのに「まだ足りないよ」と言って他の土俵にまで押しかけていった。
もちろん田代たちにも意地がある。悔しいから朝青龍の稽古量についていこうとするのだが、スタミナも根性もどうしても及ばない。
一日の稽古仕上げ、みんなで揃って踏むしこでも田代たちはもう疲労困憊で半泣き。声を出す余裕もない。ところが朝青龍だけは目を爛々と輝かせながら「よいしょー! よいしょー!」と吠えまくっている。

