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大相撲PRESSBACK NUMBER
「早く上がれ! この野郎!」ハリウッド映画に出演した無名の元力士に初対面の闘将・星野仙一がゲキ…同期の朝青龍からも「待ってるんだよ!」
posted2025/06/07 11:04

無名の元大相撲力士から転身し、ハリウッド映画にも出演した田代良徳
text by

雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
写真提供:田代良徳
朝青龍はやはりとんでもない男だった
大相撲の世界では序ノ口、序二段、三段目、幕下、十両、幕内の順で番付が上がっていく。「関取」と呼ばれる十両以上の番付になれば、100万円以上の月給がもらえるようになる。横綱や大関といった夢を語る力士は数多くいるだろうが、現実的にまず達成すべき目標は関取になることである。
関取になれば大銀杏も結えるようになり、着るものも立派になる。大部屋での集団生活を抜け出して個室を与えられたり、部屋の外での一人暮らしも認められるようになる。一人前の力士とみなされ、さまざまな待遇が格段によくなるのだ。地上波に映るのもだいたい十両以上。幕内はさらに平幕力士、小結・関脇・大関からなる三役、そして番付の頂点に立つ横綱に分けられる。
朝青龍は翌場所は序二段で全勝優勝、翌々場所は三段目で全勝優勝。その1年後には幕下でも優勝。わずか2年足らず、貴乃花と同じ速さで十両へと駆け上がっていった。田代が感じていた通り、やはりとんでもない男だった。
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田代もそんなに引けを取っていたわけではない。三段目で一度負け越しがあったものの、デビュー2年目には成績次第で一気に十両に手が届く地位まで番付を上げた。しかし、幕下15枚目で臨んだこの場所は1勝6敗。大きく負け越してチャンスを生かせなかった。
田代は引退してしばらく経った頃、この場所でテレビ中継のインタビューに答えている自分の映像を見つけた。そんなインタビューを受けたことすら覚えていなかったが、若き日の自分は、冷静に己のメンタリティについて解説していた。
「今までは負けて当たり前の気持ちで上位の人と戦って、とんとん拍子でここまで来ました。でも、このあたりの番付では負けて当たり前じゃなくて必死に勝たなくちゃいけない。負けて元々の精神じゃダメなんです」
田代はそれを聞いて、懐かしく思った。口では殊勝なことを言っているものの本音はまた違って、内心では「後ろに十両座ってるわ!」「来ちゃいけない世界に来たな」 とビビっていたからだ。