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甲子園の風BACK NUMBER
打者は全員スイッチヒッター、8年前からノーサイン野球…でも「21世紀枠の推薦校」に? 秋大会で大阪ベスト16進出「ナゾの公立高」の秘密を追う
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清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakeshi Shimizu
posted2025/06/01 17:00
2022年の秋季大阪大会でベスト16まで勝ち進んだ府立佐野高校。当時から珍しい「全員両打ち」のチームスタイルだった
自分なりのスイッチヒッターの形ができて試合でもトライする。ゲームを見ていて面白いのが、1球目とその後の打席を各自によって変える選手が複数いることだった。藤井さんは何の指示もしていない。
「相手ピッチャー、バッテリーが戸惑ってくれれば、それでいい」
佐野高のある日のミーティングを拝見した。視聴覚室での座学だった。プロジェクターに映し出されていたのはユーチューブの映像で、センバツの沖縄のエナジックスポーツ高校の試合だった。
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「このランナーとバッター、変化球がくるのをイメージしてアイコンタクトでエンドランをかけているよね」
藤井さんが映像を止めながら問いかけたり、解説を加える。
エナジックスポーツはノーサイン野球でセンバツ1勝を挙げて注目された。そう、佐野高もノーサイン野球をモットーにする。発端はエナジックスポーツより遡ること数年、「2017年ぐらいからノーサイン野球をやっています」と藤井さんは胸を張った。
ノーサイン野球…そのきっかけは?
高知大学時代、神宮の全国大会をかけた地域大会で東亜大学と対戦することがあった。そこの中野泰造元監督がノーサイン野球で日本一になっていて興味を持ったのが始まりだ。
教員になって佐野高に赴任、ある時の練習試合で、スクイズのサインを出したがバッターがサインを見落とし、空振りしてしまう。
「サイン、わかってもらってないじゃんって。サインを出すのは指導者のエゴじゃないか。もう、出すのをやめようと」
ランナーは自由にいつ走ってもいい、バッターはいつ打ってもいいよと思うようになったのは25歳から28歳の第1期佐野高の監督時代からだ。異動した八尾翠翔高では前監督を引きついでサインを出したが、5年後、佐野に帰ってきて、また原点に返ろうと決意する。
「サインを出すと子供たちの能力が下がっちゃうのではという思いもあった。自然発生的にノーサインにして100回大会あたりから本格的に取り組みました」


