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甲子園の風BACK NUMBER
「教えすぎると、子供たちが迷うんで…」打者は全員両打ち&ノーサイン野球で“大阪府大会ベスト16”進出…ナゾの府立高を育てた監督の正体は?
posted2025/06/01 17:01

2022年の秋季大阪大会でベスト16まで勝ち進んだ府立佐野高校を率いた藤井朋樹さん。ノーサインや全打者両打ちというトリッキーな戦術の狙いは何なのか
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清水岳志Takeshi Shimizu
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Takeshi Shimizu
高校野球の強豪校がひしめく激戦区・大阪。大阪桐蔭、履正社といった強豪私学が幅を利かせる一方で、健闘を見せる公立校もいくつもある。そのひとつ、大阪府立佐野高校は世にも珍しい「打者全員が両打ち」という驚きの戦法で、3年前の秋季大阪大会ベスト16という実績を残した。他にも監督がサインを出さない「ノーサイン野球」など変わったスタイルの同校。そんなチームを作り上げた監督は、一体何者なのだろうか。《NumberWebレポート全2回の2回目/最初から読む》
2004年に大阪府立佐野高校に赴任した藤井朋樹さん。赴任当初、部員は1、2年生で22人。バックネットもなく、ベースも固定されていなかった。雨が降ったら4日ぐらい水が浮いていた。まずは環境整備から始まった。
「夏休みに朝6時に集合して、グラウンドのはじからふるいにかけて小石を拾った。あと2時間がんばれとかいって……常軌を逸していますよね」
ボールは10球しかなかったという。ノックをして戻ってくるとボールは擦り切れていた。テープを巻いたり、縫って使った。
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私立野球部出身の藤井さんにとって、長時間練習は当たり前。
「夜間照明がなかったので、他の部が帰ってから21時まで体育館で練習しました。自分は帰宅してもすることがないので、子供たちと長い時間おるほうがいいなと。今から思えばとんでもないですね」
設備は不良、勧誘もなし…いかにして強豪に?
もちろん公立なので中学生の勧誘などできない。
中学部活卒の普通の高校生は“量こそ正義”についてきてくれた。その成果が出たのが2007年夏だった。優勝候補の一角と言われた浪商に1回戦で勝つのだ。その年以降、3年連続でベスト32まで進出した。
そして定期異動で2008年4月に八尾翠翔に移り、6年後の14年にまた佐野に戻ってきた。