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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥に求められるのは「凄いライバルとの闘い」“東洋の激闘王”亀海喜寛の見果てぬアメリカンドリームと「強い選手とやりたい」井上への共感
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/05/20 11:03
亀海喜寛とヘスス・ソト・カラスとの第1戦。この激闘が「ザ・リング」誌のファイト・オブ・ザ・イヤー候補となり、亀海はアメリカでの評価を上げた
2017年8月、ロサンゼルス近郊のスタブハブセンターで、コットとの一戦は行なわれた。試合前、控え室でのミット打ちではかつてないほどパンチのキレを感じていた。序盤にショートのストレートがヒットし、手応えもあった。だが3ラウンド終了直後、突然上腕に力が入らなくなる。
つかみ損ねたアメリカンドリーム
「理由は分かりません。ショートパンチを中心に攻めていく考えでしたけど、強いパンチが打てなくなってしまって……。これではコットのスタミナを削れない。3ラウンドでコットの息が切れかけていたので、歯がゆさもありました。10年前に戦っていたなら実力差はあったでしょうけど、(コットの力は)想定内ではありましたね。ただクレバーなボクサーだなとは感じました」
結果は大差の判定負けに終わる。アメリカンドリームをつかみ損ねたものの、実は2018年5月に予定されていたカネロとゲンナジー・ゴロフキンのアンダーカードとして、元IBF世界ミドル級王者デビッド・レミューとのミドル級ノンタイトル戦をオファーされて受諾したという。しかしカネロのドーピング検査陽性によって、この話は流れてしまう。
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「僕は体重に余裕のあるスーパーウェルターなのに、レミューは破格のパンチ力を持つうえにスーパーミドル級でもやっている選手。ミドル級での試合になるし、どうしようかなと思いました。でもT-モバイルアリーナでのペイパービューファイトというのはトップボクサーの証にもなるので引き受ける決断をしました。結局は消滅してしまいましたけど」
日本人ボクサーの評価そのものを上げた
コットに敗れたとはいえ、ロバート・ゲレーロやソト・カラスらとの激闘で積み上げた信頼は損なわれていなかった。その魂のファイトは、日本人ボクサーの評価そのものを上げた。どう戦えば本場のファンに受け入れられるかを、後進に示したボクサーでもあった。

