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「ずっと違和感を抱いて生きてきました…」女子ボクシングのレジェンド・藤岡奈穂子が語った“女らしさ”の葛藤と「同性婚」カミングアウトまでの道 

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佐藤春佳

佐藤春佳Haruka Sato

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posted2025/05/12 11:01

「ずっと違和感を抱いて生きてきました…」女子ボクシングのレジェンド・藤岡奈穂子が語った“女らしさ”の葛藤と「同性婚」カミングアウトまでの道<Number Web> photograph by AFLO

女子ボクシングの第一人者として走り続けてきた藤岡さん(写真は2017年WBA女子世界フライ級王座決定戦)

 保守的な故郷で苦しんだ“違和感”

 現在49歳の藤岡さんが生まれ育ったのは宮城県大崎市。のどかで保守的な故郷には当時、性のあり方についてオープンに語る風土もなかった。制服のスカートに違和感を覚え、男子への恋愛感情もなかった藤岡さんがのめり込んだのは、“女らしさ”の呪縛から逃れられるスポーツだった。

 藤岡 「自分は他の人とは違うんだ、という違和感がありました。それから逃げるようにソフトボールに打ち込んで……スポーツをしていれば、息苦しさから遠いところにいられる。そこで成績を残せば評価してもらえる。今思えば、逃げ場のような感じもあったかもしれません」
 

 強豪校で遊撃手としてインターハイに出場し、卒業後は実業団でも活躍。24歳の時にボクシングと出会って転向すると、1年足らずでアマチュア大会にデビューした。破竹の勢いで勝ち進み国際大会でも活躍するようになったが、それでも「自分は人とは違う」という苦しさからは逃れられなかったという。

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 藤岡 「見合い話をもらったこともありますよ。宮城にいる時は佐川急便で働いていたんですけど、農家に配達に行くと『うちの息子の嫁にどうかな』って3回くらい(笑)。ボクシングをやるにしても、男性がやるのとでは見られ方が違う。まず『なんで?』って聞かれますから。まあそれはそうだよな、って思いますけどね」

女子スポーツ“取り上げ方”への疑問

 2008年に女子ボクシングがプロ化されると、藤岡さんは「竹原慎二&畑山隆則ボクサ・フィットネス・ジム」のスカウトを受け33歳でプロ転向し上京した。ここから数々の偉業を成し遂げる「伝説」が始まっていくが、競技生活の中では男性中心の格闘技界ならではのジレンマを感じることもあったという。高橋さんが代弁する。

 高橋 「女子の格闘技ってどうしても可愛いとか綺麗とかそういう方向性で取り上げられるというところがある。藤岡さんって本当に凄く面白い試合をしてきたんです。そこに単純にもっとフォーカスして欲しかったという思いはありますね」

 藤岡 「メディアの取り上げ方という意味で、強さとか実力よりも、外見とかちょっと変わった経歴とか、浅いところをさっと触るような見られ方が多くて、その影響力は本当に大きい。自分が現役中、こういう関係をオープンにしなかったのは、そこにばかりフォーカスされてボクシング自体を見てもらえなくなったら嫌だなっていうのがあったんです。あとは、親に言ってなかったというのも大きかったですけど……」

意を決して父に打ち明けると…

 10年の付き合いになる高橋さんとの関係や性のあり方について、藤岡さんが自身の父親に伝えたのは最近のことだ。アメリカで結婚の手続きをした後の昨年春、意を決して打ち明けた。

【次ページ】 「同性婚」への思い…二人の夢

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