「私は“最悪の事態”を予期した…」なぜ井上尚弥vsカルデナスは「とてつもない試合」になったのか？ 米誌識者が白熱討論「（ダウンが）ゴング間際で幸運だった」 

DS　井上は攻めの引き出しの多さを見せつけ、7回にダウンを奪い返しました。この時点でもうKOは時間の問題の印象。そして8回にコンビネーションをまとめると、レフェリーがストップをかけました。ただ、カルデナスの渾身のパンチはまだ生きており、最後まで怖さがあったのは事実です。そんな背景もあって、ストップは少々早すぎるのではという声も出ていました。個人的にはそれまでのダメージの蓄積、7回のダウンは崩れ落ちるような倒れ方だったことなどから、適切なストップと思いましたが。

TG　ほんのわずかに早すぎたんじゃないかと思います。試合後に大騒ぎになるレベルではないですが、あと1、2発の猶予を与えてもよかったかもしれません。レフェリーがあの決断をしたのは、カルデナスが反撃しなかったから。ストップ直前、イノウエはおそらく8〜10発のパンチを連打していたでしょう。レフェリーは誰よりも近くで2人の姿を見て、試合の流れがこれ以上大きく変わらないと感じ取り、そこでカルデナスの将来のために被弾から救い出そうとしたのだと思います。

「あれほど強烈なダウンを喫しながら…」

ダウンを喫したものの、見事な勝利でラスベガスを沸かせた井上尚弥　©︎JIJI PRESS

DS　総合的に見て、井上は守備面で綻びはありましたが、オフェンス面ではパウンド・フォー・パウンド2位にランクされる選手らしい迫力、力強さを見せてくれたと思います。序盤、あれほど強烈なダウンを喫しながら、戦いに臨む姿勢がまったく変わらなかったのは驚異。試合後、殴り合いが好きだと自身でも話していましたが、とにかく派手なKOを追い求める姿勢はアメリカのファンに感謝されたはずです。一部のアンチを除き、今戦はアメリカでかなりポジティブに捉えられています。前述通り、凡戦ばかりだった週末を救ってくれた救世主のような位置付け。実際にこれだけファンを喜ばせることを意識し、継続的にエキサイティングな試合を見せてくれる選手は現役では他に思い浮かびません。本場での知名度、人気をさらに高めたのではないでしょうか。

ADVERTISEMENT

TG　私もイノウエのパフォーマンスは良かったとは思っています。ハンドスピード、パンチの正確さなどは非常にハイレベル。ただ、試合を重ねるごとに明白なのは、いかに井上でも、スーパーバンタム級ではこれまでのように綺麗に相手を倒すのがより難しくなっているということです。連続KOは続けていますが、どんな相手でも2回くらいに倒していた頃と比べて決着は少し遅くなっています。より屈強な相手と対戦し、KOするために少しずつ崩していかなければならなくなっています。今後、フェザー級に上げた場合にはさらに難しくなるのでしょう。イノウエがフェザー級の相手を倒せないと言っているわけではなく、上の階級でもパワーパンチャーであり続けるはずですが、昇級すればパンチの効果にはまた影響は出るだろうということ。私はイノウエならWBA世界フェザー級王者ニック・ボール、WBO同級王者ラファエル・エスピノサにも勝てると思っていますが、楽な戦いにはならないのかもしれません。

〈つづき→後編〉