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「私は“最悪の事態”を予期した…」なぜ井上尚弥vsカルデナスは「とてつもない試合」になったのか? 米誌識者が白熱討論「(ダウンが)ゴング間際で幸運だった」 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byAP/AFLO

posted2025/05/07 17:10

「私は“最悪の事態”を予期した…」なぜ井上尚弥vsカルデナスは「とてつもない試合」になったのか? 米誌識者が白熱討論「(ダウンが)ゴング間際で幸運だった」<Number Web> photograph by AP/AFLO

2回、カルデナスの力強い左フックを受けてダウンを喫した井上尚弥

DS やはりまずは2回のダウンの話からしたいのですが、特に序盤戦、カルデナスの左フックはパワフルでスピードもありました。試合前から得意パンチと喧伝されていましたが、実際の威力は予想以上。ダウンを奪ったパンチは一見すると振り回したものが当たったように見えるかもしれませんが、実際にはトムの言う通り、ディアス・トレーナーの「相手が攻めてきたら顔面でもボディでもいいから左フックを打て」という指示通りに出したパンチでした。おそらくは打ち終わりを狙うというファイトプラン通りで、幸運なパンチなどではなかったと思います。直後、リングサイドから見ていても井上のダメージが読み取れず、最悪の事態を予期しかけました。

TG 私にはイノウエはこれまでにないほどダメージを受けていたように見えました。ルイス・ネリ戦でのダウンの際はすぐに跳ね起き、レフェリーの方を見ていました。今回は少し間があり、その間は脳が揺らされていたんじゃないでしょうか。おそらくキャリア最大のダメージでしょう。イノウエのキャリアを通じて、私が見る限り、明確に効かされたのはノニト・ドネアとの第1戦、ネリ戦、そしてこのカルデナス戦だけ。30戦もこなしているボクサーが、深刻なダメージを受けたのがそれだけという事実こそがイノウエの能力を物語っているとも言えますが。

“衝撃ダウン”以降はフルマーク採点

DS 直後は効いていたのだとすれば、あのパンチを浴びたのが2回終了のゴング間際だったことは幸運だったのかもしれません。カルデナスのマネージャー、マイケル・ミラー氏は「もう少し時間があれば」と悔やんでいたとのことです。ただ、井上は3回以降もほとんどダメージを感じさせず、スローダウンすることなしに攻め抜きました。この回復力は見事だし、以降は同じ左フックを浴びることはほぼなく、すれすれでかわしていました。ネリ戦同様、この適応能力が今回も勝負を分けた印象があります。井上も顔面、ボディに多少の被弾はありましたが、2回以外はフルマークという採点が示す通りに主導権は常に握っていました。

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TG イノウエの長所の一つは距離の測定が非常に上手なことですね。カルデナスのゲームプランが相手のパンチを受け止め、その後にカウンターを狙うことだと察知すると、イノウエは連打の後、巧みにステップバックして相手のパンチが届かない位置に動いていました。そうやってカルデナスのビッグパンチを許さず、自身がカウンターを打ち込める体勢を作っていたのです。6回終了頃にはほとんど攻め手がない状況にカルデナスを追い込んでいました。やはりイノウエの方が総合力で数段優れていたということです。

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