獅子の遺伝子BACK NUMBER
「チャンスでは自分に回ってこいと…」西武・渡部聖弥が明かした打撃論が凄い「華はないかもしれないが」熟練コーチも唸らせた実力派ルーキーの素顔
text by

市川忍Shinobu Ichikawa
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2025/05/04 11:02
ライオンズ巻き返しの原動力となっているルーキーの渡部
課題と向き合った結果、開幕戦は5番で出場、しかも2安打を記録する好スタートを切ることができた。
それにしても、プロのレベルに対応できず悩むルーキーが多い中、渡部はなぜこれほど成績を残せているのだろうか。
「プロのレベルに対応するために、ボールの狙い方はしっかり定めています。プロの投手の場合、ストレートを待って、その上であれだけキレのある変化球にも対応するのは正直、難しい。どちらかに絞るとか、カウントによってこのコースに絞るとか、そういう考え方で打席に立てているのが大きいかもしれません」
データとの向き合い方
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データを手に入れたあとは、まずは自分で考え、その後、データ担当者や仁志コーチに相談する。「自分はこう考えている」と意思を伝え、もし何かあればコーチから「このボールに気をつけよう」とアドバイスを受ける。「最終的に決めるのは自分です」と渡部はきっぱり語る。
「この打席で収穫がなければ、成長できません。この球を打つと自分で決めたら、たとえ失敗しても次の打席に必ず生きる。1打席1打席、割り切るところは割り切って臨みます。次の打席、次の試合に繋がっていくという考え方です」
相手の配球を考える習慣は大商大時代により強くなったという。2年春のリーグ戦で首位打者を獲得。2年秋のリーグ戦では5本塁打を記録し、関西六大学野球連盟のシーズン最多本塁打記録を更新した渡部に対し、相手バッテリーは大胆な攻め方で挑んできた。
「特にチャンスの場面は極端でした。デッドボールを当ててもいいから厳しいインコースばかりとか、けっこう当たりそうな危ないボールが来たり。逆に全部、変化球で来るなどの攻められ方をされてきました」
そういった頭脳戦を経て、考えること、イメージを明確にすることなど、準備の重要性に改めて気づいたという。
前日から始まる相手投手との“駆け引き”
「翌日の先発が発表されたときに、対戦する投手の映像をまずは確認します。同時にデータで球種の割合を見ます。試合の映像はピッチャーの後ろからの映像なので、打席からの見え方とはギャップが出てくる。そこで、前から来たボールに対するイメージ……こういう曲がり方なんだろうなというのを自分で思い描きますね。手に入る情報は大学時代に比べて圧倒的に増えましたから、割り切りやすいとは感じています」
その上で、このピッチャーはどの球種に自信を持っているのか、このバッテリーであればおそらく自信を持っているボールで勝負してくるはずだ等、相手の心理を考えると語る。その口調はまるで駆け引きを楽しんでいるかのようにも見える。

