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「誰にも言わないでね」新庄剛志監督が耳元で開幕スタメン通達…日本ハム“恐怖の9番”水野達稀を震わせたボスの賛辞「水野君 有難う 感動した」
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2025/05/20 17:00
日本ハム・水野達稀を祝福する新庄剛志監督
《頼むから今年は2割8分打ってちょーだい 頼むわ》(25年1月18日、日刊スポーツ)
水野は気が引き締まる思いだった。
思えば、水野にとって新庄の言葉はレギュラーの座を勝ち取るまでの道しるべになってきた。
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「1年前の開幕戦の2安打、あれが自分にとって大きかったですね」
24年3月29日、千葉ロッテマリーンズとの敵地ZOZOマリンでの開幕戦は両チーム無得点のまま、3回に入った。
先頭で打席に立ったのが、「7番ショート」で先発した水野である。左腕の小島和哉が投じた球を振りぬくと右中間を深々と破る三塁打になった。チームのシーズン初安打にナインは目覚め、奈良間大己が四球で繋ぐ。そして田宮裕涼がセンター前に運んで先制した。
新庄監督からの賛辞「水野君 有難う」
ファイターズがマリーンズとの開幕3連戦を勝ち越した3月31日の試合後、水野がインスタグラムを開くと新庄の投稿が目に留まった。
《水野君 素晴らしいバッティング 有難う 感動した》
この日は剛腕の佐々木朗希を打ち崩した一戦だった。2点を先行されて迎えた5回表。水野が先頭でライト前に運ぶと、そこから得点に繋がり、反撃のキッカケをつくった。さらに9回、チームは同点に追いつき、なおも1死三塁で打席へ。今度は益田直也のスライダーをとらえてまたもライト前へ。これが決勝打になった。
要所でことごとく得点に絡んだ水野への新庄の賛辞はつづく。
《この小さな身体でベンチプレス140キロ上げるんです 間違いなく 日々努力してないと140キロの重さなんか上がりません》
これを読んで、まだ何者でもない23歳の若者は自分の視界が広がる思いがした。
水野は香川県丸亀市出身で、丸亀城西高では強打のトップバッターとして夏の甲子園に出場した。卒業後、JR四国を経てパンチ力を買われて21年にファイターズからドラフト3位で指名された。だが、アマチュア時代はスター街道を歩いてきたわけではなく、プロ入り後も目立った活躍を見せていたわけでもなかった。
しかも、171cm、76kgのサイズが示すように体格では目立たない。
それでも、新庄は水野の長所を見抜いていた。
水野がユニフォームからタンクトップに着替えると、丸太のように鍛えあげた両腕があらわになる。分厚い胸板はベンチプレスで鍛え上げた賜物で、新庄が現役の頃に持ち上げたというバーベルの重さを上回っていた。新庄はその数字から水野の心のありようにまで思いをはせ、開幕スタメン抜擢の判断材料にしていたのだ。
1年前の開幕戦は水野にとってターニングポイントになった。
「1打席目の1スイング目で三塁打を打てたことがすべてでしたし、ホッとしました。もし、あの試合で打てていなかったら、次の試合はスタメンから外れていたかもしれません」
だが、水野の本当の強さは筋骨隆々のその肉体よりも、不遇でも踏ん張れる心にある。
戦力外の危機「覚悟したといいますか…」
24年が始まったとき、水野は“戦力外”の危機に陥っていた。

