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「毎日6~7時間クイズ漬け」でも現役で東大合格→医学部に…全国大会で初の中学生優勝“史上最強の天才少年”が「クイズの深淵」に落ちたワケ 

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別府響

別府響Hibiki Beppu

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photograph by提供:青木寛泰

posted2025/05/14 11:02

「毎日6~7時間クイズ漬け」でも現役で東大合格→医学部に…全国大会で初の中学生優勝“史上最強の天才少年”が「クイズの深淵」に落ちたワケ<Number Web> photograph by 提供:青木寛泰

学生クイズの頂点を決める大会「abc」を史上初めて中学生で制すなど、輝かしい成績を残してきたクイズプレーヤー・青木寛泰

青木は大会で“フルパワー”を出さなくなった

 一方で、青木は青木でこの優勝の後、小さなスランプに陥る。

「それまでは自分より実力的に上の人たちがいて、『その人たちをどうやって倒すか』ということを一番に考えていたんです。格上相手に一番効果的なのは試合が始まった直後に、3問か4問ぐらい一気に正解して、先行逃げ切りの形を作ること。それで向こうを焦らせて、その流れで押し切る……そんなスタイルで戦っていたんです」

 ただ、日本最大級の大会でぶっちぎりの最年少優勝を飾ってしまった以上、むしろ青木は多くの選手にとって格上の立場になってしまった。すると、「リスク承知で攻めてきた相手に先行された結果、焦る」という、まさにこれまで相手にやってきた術中に自分がハマり、大会で負けることが増えてきたのだ。結果的に、半年後に行われた連覇を狙った高1のabcは3回戦で敗退している。

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「これまでのやり方だと、どうしてもギャンブル性もあるし、足をすくわれることがある。チャンピオンとして戦うならこれは無理だなと思いました」

 そう考えた青木は、自身のスタイルをガラッと変えることを決めた。

 青木が考えた新たなスタイルというのは、端的に言えば実にシンプルな「横綱相撲」だった。

「簡単に言えば常にフルパワーを出さずに、8割ぐらいのギアで、誤答をせずに淡々と丸を積みあげる。リスクを下げて、かつ競り負けないようにする形にしようと」

 もちろんそれは、素人目にもわかる理想論ではある。ただ、それをするには尋常ではない知識量が必要になる。

「8割で競り負けないためには、人の倍の知識がないといけない。それプラス、どんな状態でも自分だけが取れる問題も増やす必要がある。それを積み上げるのは大変でしたね」

「毎日6~7時間クイズに没頭」

 そうして高1のabcで敗れて以降、青木は「起きている時はご飯を食べているか、勉強しているか、クイズをやっているか」という常人離れした日々を送った。

 授業以外はほぼクイズ。授業間の休み時間や昼休みも、空いた時間があればクイズをしていたという。高校生らしい放課後の遊びなど、まったく無かった。欲しいとも思わなかった。

 通常のクイズプレイヤーは、基本的に自身の生活の中から知識のベースを作り、それをクイズという形式に向けてアジャストするという形をとる。だが青木にとっての生活とは、それがそのままクイズでもあった。

 クイズで得た知識をベースに、それをさらにクイズに落とし込む――それは日々6~7時間近くクイズに没頭し続けていた青木にしかできない所業だった。しかも青木には、その情報を処理しきるだけの驚異的な頭脳が備わっていた。それだけクイズに打ち込みながら、“あの”開成高での成績も、常にトップクラスをキープしていた。

「この頃は、それまで伊沢さんを追いかけてきたように、今度は強い大学生の先輩たちを何とか倒そうと考えていました。一度abcでは勝ったので、安定して勝てるようになろうと。そう考えたら、どんどんクイズだけに没頭していきました」

【次ページ】 クイズ漬けの生活で、東大理科Ⅱ類に現役合格

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