「毎日6～7時間クイズ漬け」でも現役で東大合格→医学部に…全国大会で初の中学生優勝“史上最強の天才少年”が「クイズの深淵」に落ちたワケ 

「正直、怖さが大きかったです」

　会場の異様な雰囲気は、青木以外の選手が勝つことを許さないムードを作り出していた。誰だって、歴史的な快挙の目撃者になりたいのだ。決勝に進んだ3人は最後の最後まで縺れたものの、そんな空気も後押しして、結局青木が優勝を決めた。

「正直、怖さが大きかったです。『えっ、勝っちゃったよ』という感じで。それまで背中を追いかけていた高校生や大学生の先輩たちから、急に倒すべき対象として見られる。それが何というか……シンプルに怖かった」

　その青木の戸惑いは、優勝で手にしたトロフィーの扱いにも表れていた。

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　優勝を実感するのが恐ろしくなった青木は、その勝利の象徴を家に持ち帰ることができなかった。

「確か……開成の後輩に頼んで、クイ研の部室に持って帰ってもらったんじゃなかったかな。なんとなく実感が湧くのが怖くて。親にも『優勝した』って言えなかったんです。もちろん決勝後は疲労でフラフラになっていて、荷物をできるだけ減らしたかったという理由もありました」

青木のトロフィーを渡されたのは、先輩・伊沢だった

　実は、ここには青木の記憶違いがある。

　その記憶の改竄こそが最も青木の困惑を顕著に表しているとも言えるのだが、実際にこの優勝トロフィーを預かったのは――それまで青木がその背中を追い続けて来た、1年先輩の伊沢拓司だった。

　当時、高校2年生だった伊沢はabcの直前に行われた日テレ系『高校生クイズ』で連覇を果たし、一般の人からも“クイズ王”というイメージで見られ始めていた。

　一方で、自身の中では「純粋な競技では青木には勝てない」という現実を受け入れはじめていたタイミングでもあった。実際、そんなギャップに苦しんだ迷いもあってか、このabcでも伊沢は3回戦で敗れている。

　伊沢の記憶によれば、青木は大会で優勝し舞台を降りると、ぎこちない表情で何とか「おめでとう」を絞り出した伊沢と、他の部員たちにそのままトロフィーを渡したのだという。

「大会が終わった後は皆でファミレスに行ったんですよ。そこでまじまじと優勝した青木とトロフィーを見て……笑うくらいしかできなかったですね、悔しすぎて」

インタビューに答える伊沢拓司　©Keiji Ishikawa

　しかも何の因果か、「本当の天才」の圧倒的な実力を目の当たりにした“クイズ王”は、たまたま手荷物が少なかったため、そのトロフィーを一時的に預かることになってしまった。

　伊沢はそれを再び本人に手渡すことが、どうしてもできなかった。結果的にそのトロフィーは、他の部員の手も借りて開成の部室に置かれることになる。

　そして、このabcを境にクイズ界における「学生最強」の看板は、名実ともに伊沢から青木へと移ることになった。

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