革命前夜~1994年の近鉄バファローズBACK NUMBER

「ノーノーあるあるなんです」1994年開幕戦・清原和博の打球に守備陣が思わぬ反応!? それでも野茂英雄なら「ここで三振で終わり」のはずが… 

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喜瀬雅則

喜瀬雅則Masanori Kise

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photograph byKoji Asakura

posted2025/05/02 11:06

「ノーノーあるあるなんです」1994年開幕戦・清原和博の打球に守備陣が思わぬ反応!? それでも野茂英雄なら「ここで三振で終わり」のはずが…<Number Web> photograph by Koji Asakura

ノーヒットノーラン目前で清原和博の「捕れた当たり」がヒットになり、一転ピンチに。それでも野茂英雄への信頼は揺るがないはずだったが…

ついに「H」マークが点灯した

 交代に激怒して、ベンチ裏でひと暴れした石井浩郎も、三塁側ベンチから、清原の“記録を止める一打”を「見てました。捕れるのに、あーっ、ってなりました」。

 西武の佐々木も、鮮明にそのシーンを記憶していた。

「清原のライトオーバーね。あの時、内匠君、前に来ましたよね。ああ、ライトフライやなと思ったら越えていったから、なんとなく、ラッキーなことなんやな、と思ってね」

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「H」の文字が、スコアボードに点滅した。

 大記録は途切れた。記者席にも、ため息と、安堵の声が漏れた。

 その張り詰めた空気が緩んだのが、起承転結の『転』だったのかもしれない。

一発で同点のピンチに

 清原の二塁打に続き、5番・鈴木健にこの試合7つ目の四球を許して無死一、二塁。ホームランが出れば、同点に追いつかれる状況になった。

 監督の鈴木啓示が、三塁側ベンチから出て来た。野茂と光山、そして内野陣が集まるマウンドの方へと、真っすぐに歩を進めた。

 鈴木が「任せた“的”なことを言ったけど……」と光山は証言する。

 記録が途切れ、一発が出れば同点というピンチ。ここでいったん、気持ちを入れ替え、もうひと踏ん張りや、と背中を押す。400勝投手・金田正一(元巨人)と並ぶ最多の開幕投手14度、うち9勝は同最多という、通算317勝の大投手・鈴木啓示には、エースの心理が分かるのだ。

 絶妙のタイミングでの、一息入れての仕切り直し。しかし、これが悪夢のエンディングへの“伏線”になるとは、この時点では、誰も想像すらしていない。

ブルペンへの意外な指示

 三塁側ブルペンに、思いも寄らぬ指示が届いたのは、監督の鈴木啓示が野茂英雄にひと声かけ、ベンチに戻ってきたそのタイミングだったという。

 中継ぎエースの佐野重樹(現・慈紀)は「誰もブルペンで肩を作っていなかったんよ」と証言する。リリーバーたちにすれば、この状況では“出番なし”と踏んでいたのだ。

 エースが8回までノーヒットノーラン。記録が途切れたとはいえ、まだ失点も許していない。塁上の走者も2人、リードは3点。万が一、本塁打を打たれても同点。だから、野茂を代える理由がない。代える方がおかしい。それが半ば、この世界での常識でもある。

【次ページ】 佐野慈紀という男

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