革命前夜~1994年の近鉄バファローズBACK NUMBER
「ノーノーあるあるなんです」1994年開幕戦・清原和博の打球に守備陣が思わぬ反応!? それでも野茂英雄なら「ここで三振で終わり」のはずが…
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2025/05/02 11:06
ノーヒットノーラン目前で清原和博の「捕れた当たり」がヒットになり、一転ピンチに。それでも野茂英雄への信頼は揺るがないはずだったが…
ライトの内匠政博が一瞬、前に出た。そして、慌てて後ろへ下がる。ライナー性の当たりは、内匠の頭上を越えていた。
ノーノーの野手心理
「その時の感じは、今も覚えていますね」
光山は、打球の行方を追いながら、異様な緊張感の中で守る野手の心理に思いをはせた。
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「ノーヒットノーランあるある、なんです。なんかこう、消極的になってしまうって言うんですかね。捕れる可能性はあったかもしれんけど、チャレンジできんかった、という風にも見えたんです。
打球をグラブに触ったのに『ヒット』になってしまうとイヤじゃないですか、野手的にね。エラーだったらいいんですけど、外野手ですからね。ノーヒットノーランで進んでいたら、今でも多分、6回、7回くらいになってきたら、守っている野手はみんな『飛んでくるな、飛んでくるな』って思っていますよ」
光山英和が読む選手心理の機微
光山は、1983年の近鉄ドラフト4位。同期の2位が現ロッテ監督の吉井理人で、光山は吉井がロッテ監督に就任した2023年から1、2軍統括コーチ兼統括コーディネーターを務めている。現役時代は、野茂の“専属捕手”的な役割を務め、西武、DeNA、楽天と指導者歴も長く、選手の心理やベンチの空気といった、試合の機微にも敏感だ。
ここで光山が引き合いに出したのは、2025年3月28日の開幕戦、オリックス対楽天戦でのワンシーンだった。オリックス・宮城大弥が7回までパーフェクト投球。大記録がちらつき始めた8回、楽天・辰己涼介のボテボテの当たりが一塁線の真ん中付近に転がった。
「この前の開幕戦の宮城のやつも、そんなんやったじゃないですか。詳しくは見ていないんですけど、あのボテボテ、ファーストがむちゃくちゃチャージをかけてたら、アウトかもしれませんよ。動画見ながらね、ああ、あそこ、行ってないな、と思ったんですよ」
グラブに当ててこぼす。あるいは捕った後、一塁送球がそれる。そうして自分の関わったプレーで、エラーだと思ったプレーがヒットと判定された瞬間、記録が途切れてしまう。それならば「文句なしの当たりで行ってくれた方が……ね」と光山は、守る野手たちの心中をそう慮る。

