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「ニッポンのボールは飛ばないね」米国ファンが“NPB球”に苦言も…カブス鈴木誠也のホームラン未遂「飛距離が11m以上も失われた」「ヒット確率は97%だった」
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生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2025/03/20 11:08

3月16日、ドジャース戦でホームランを放った阪神・佐藤輝明とロバーツ監督。試合後の2ショット
昨季の開幕後、「ボールが飛ばないのではないか?」ということが議論された。三冠王、ヤクルトの村上宗隆が「打球速度と飛距離が比例していない感覚があります」と口にしたように、打者が「あれ?」と感じるケースが増えていた。
それを受けて、日本プロ野球選手会も調査に乗り出し、公式球の反発係数を調べたが、セ・パ両リーグのアグリーメント通り、目標の平均値「0.4134」であることが確認されていた。公式球の品質は規定通りだったのである。
様々な仮説が立てられ、ボールの品質が一定ではないとか、保管方法や包装が変わったといった報道もあった。プロ野球OBからは、投手の技術が進化したといった指摘もあったが、ひとりの投手が新しい変化球を身につけて相手をドミネート(圧倒)するならともかく、集団として一気に進化したとは思えないのである。
なぜマウンドを約13cm低くしたか?
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どういった試合の「品質」を提供するのか、そのデザインをするのは統括団体である。
現在のメジャーリーグは、「より早い試合」を提供することに関して、ピッチクロックや牽制球の制限を導入するなど、進歩的すぎるほどだ。ただし、これもデザインの一部である。
歴史を振り返ってみると、1969年には打撃力と投手力のバランスに、劇的な変化を与えるマウンドの高さについてのルール変更を行っている。
1968年まで、メジャーリーグのマウンドの高さは15インチ(およそ38.1センチ)だったが、1969年に10インチ(およそ25.4センチ)へと低くなった。なぜか?
1968年のシーズンは歴史的な「投高打低」のシーズンで、最多勝はデニス・マクレイン(タイガース)で31勝(!)、最優秀防御率は伝説のボブ・ギブソン(カーディナルス)のなんと1.12(!)を筆頭に、7人の投手が防御率1点台をマークした。
反対に打者の方は、3割打者はリーグ全体でたった6人、40本塁打以上を打った打者はたった1人、30本塁打以上を打った打者も6人だけだった(ちなみに昨季の日本で、打率3割以上は、セ・リーグではオースティン、サンタナ、パ・リーグでは近藤健介の3人のみ)。
あまりにも投手有利となり、得点力が低くなってしまったため、メジャーリーグ機構は得点力の向上を意図した「品質改良」を行うことに決め、マウンドの高さを低くしたわけだ。
すると、メジャーリーグから防御率1点台の投手は消えた。ギブソンの防御率は2.18と1点以上も高くなった。ホームランも増え、40本塁打以上放った打者は、前年は1人だったのだが7人を数えた。ルール改正は、試合を活気づけたのである。
それでも…“別格の人”がいた
いまの日本のプロ野球がなにも間違った規則、ルールを設定しているわけではない。ただ、現実としてボールの反発力がなにかの原因で失われているとして(おそらく、複数の原因が重なり合って)、統括団体として、それを「是」とするのかという話である。
個人的な好みをいえば、乱打戦は好きではないが、それなりに点は入って欲しい。クオリティスタートの基準とされる「6回3失点」は試合を面白くする要素かもしれない。
ドジャースとカブスの第2戦は得点の予感に満ち、トイレに行くタイミングが難しかった。得点への「期待感」、これが野球の魅力なのだ。