「井上尚弥と戦えば、あの硬さが命取りに」中谷潤人27歳に求めたい“完璧さ”とは？ 同門の元世界王者・伊藤雅雪が解説「爆発力は尚弥にも通用する」 

ルディが言った「伊藤と畑山も才能はあったけど…」

　中谷のボクシングには、ルディ流のすべてが凝縮されていると言っても過言ではない。基本的な体の使い方、ガードの仕方、パンチの打ち方など師が口酸っぱく言い続けていることを何から何まで体現しているという。

「特徴的なのはアッパーとフックの打ち方です。潤人の試合を見てもらえれば、分かると思います。ヒザの力を使って体ごと突き上げるアッパーは、要所で出しています。フックは必ずひねるように打つんです。カマキリっぽい感じ。潤人は“ルディボクシング”そのものだと思います」

　伊藤もルディの指導を受けたが、全部取り入れたわけではない。門下生になったのは、すでに日本タイトルマッチを経験していた24歳の頃。プロで18戦こなし、自分なりのボクシング論もあった。

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「僕の場合、自分に合うものだけを吸収しました。たとえば、あまり得意ではない接近戦で『殴られてもいいから、アッパーを打ち続けろ』と言われても、難しくて⋯⋯。慣れない距離なのでめちゃくちゃもらうんですよ。右ストレートに左ボディをカウンターで合わせる形もそうでした。リスクのある形が多くて、スパーリングはトライ＆エラーの繰り返し。試合中にこの角度で本当に打てるのかな、と首をかしげたこともありました。だけど、潤人は違います。始まりが15歳だったこともあるし、彼は『超』がつくほど真面目で素直。ルディの教えに対して、何も疑わず、まっすぐに取り組んでいました。やり続ける強さがありますね」

固い絆で結ばれた中谷潤人とトレーナーのルディ・エルナンデス氏　©Naoki Fukuda

　年齢を重ねて、どれだけキャリアを積んでも、中谷の姿勢は変わっていない。世界3階級制覇を果たした27歳の今も、ルディとの二人三脚は続く。2人の関係性をずっと見ている伊藤は、しみじみと話す。

「100％で信頼しているのが分かります」

　プロモーター業を始めて英語がより達者になり、60歳を超えたルディとも中谷の話をよくするようだ。

「ルディはこれまで教えてきた選手のなかでも、潤人がベスト、最高傑作だって言っていますから。伊藤と畑山隆則（元世界2階級制覇王者）は、才能はあったけど、言うことを聞かなかったって（笑）」

　懐かしい記憶をたどれば、まだ15歳だった中谷と交わした会話も忘れられない。

＜後編へ続く＞