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「井上尚弥と戦えば、あの硬さが命取りに」中谷潤人27歳に求めたい“完璧さ”とは? 同門の元世界王者・伊藤雅雪が解説「爆発力は尚弥にも通用する」
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/03/07 17:02
2月24日、挑戦者ダビド・クエジャルを3回KOで仕留めた中谷潤人。フィニッシュの左フックはルディ・エルナンデス門下生ならではの一撃だった
2ラウンドまでも局面を切り取ると、精度の高いパンチをヒットさせ、確実にポイントを手繰り寄せた。それでも、パーフェクトに近いモンスターと比べると、どこか物足りなさを感じたという。
「尚弥はどのパンチが来ても、カウンターで反応していくタイプだと思いますが、潤人の持ち味は組み立てていくボクシングなので」
フィニッシュはルディ門下生に伝わる“タカシパンチ”
中谷らしさが、はっきり見て取れたのは馴染んできたという3ラウンド。
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「流れのなかで、効果的なパンチを出していました。1回目のダウンを奪ったシーンは、まさにそれ。相手が前に出てくるところに左ボディを効かせ、そこからの連打は完璧。あの爆発力は尚弥に対しても、通用すると思います」
そして、フィニッシュにつながった一発には、ルディの教えが詰まっている。伊藤自身も現役時代に教わったパンチである。門下生であれば、誰でも分かる。有明アリーナで見た光景を頭に思い浮かべると、ふと笑みがこぼれた。
「試合を終わらせたオーバーハンド気味の左フックは、“タカシパンチ”と言われているんです。試合中もリング下からセコンドのルディ、岡部大介トレーナーは『タカシ左』『タカシ右』と指示しているので、近くに座っていれば、聞こえると思いますよ」
気になるネーミングの由来は、15年前までさかのぼる。2010年6月、世界選手権で金メダルを獲得したマックウィリアムズ・アローヨを下し、ニューヨークで大番狂わせを起こした日本人ボクサーを覚えているだろうか。当時、アメリカでルディの門下生となった岡田隆志に教え込んだのが始まりだったという。『タカシ』の語感は発音しやすく、他の日本人選手にも伝えやすかったのだ。それが伊藤にも中谷にも、そのまま伝授されている。
「タカシパンチの出どころは、アッパーとフックの間くらい。軌道は下から斜めに上げていくイメージです。潤人はクエジャル戦でも、何度か使っていました。最後の一発はその前に(左ストレートで)効かせていたこともあり、うまく入りましたね。相手はまっすぐを警戒していたと思うんですよ。使い分けると、より効果的なパンチになりますから」


