「何でも出来る。しかしまだ何者でもない」中日・根尾昂の現在地「内外野→先発投手→リリーフ」悩める神童に涌井秀章が伝えた“たった一つの助言” 

　実はそれは「国民」だけではない。中日のベテラン野手は「あのまま打者を続けていたら……」と残念がり、指導者歴のあるOBは「時間はかかってもショートができたと思う」と話す。重鎮OBにいたっては「今年が投手としてラストイヤー。ダメなら打者に戻せ」と最後通告を口にした。

専門家も意見を二分する「適正」

　しかし、筆者は知っている。こういう「打者派」と同じ数だけ転向に賛成していた「投手派」もいることを。つまりは専門家の間ですら、根尾の適性は二分されるのだ。根尾昂の才能は多岐であり、可能性は無限である。だけどプロ野球で生き抜くための突出した何か、がまだ見つかっていない。「何でもできる（できそう）」が、必ずしもいいとは限らないのである。

2017年センバツ大会決勝で投げる大阪桐蔭・根尾　©︎Hideki Sugiyama

　現状では長いイニングを含めたリリーバーが、根尾が担う役割だ。とはいえ約束されたポジションなどない。そんな根尾にとって、一筋の光明となりそうなのが涌井秀章だ。このオフシーズン、三重県鈴鹿市と千葉県館山市での自主トレに、根尾を誘った。照れ隠しだろうか、涌井は「適当に声をかけただけ」とはぐらかすが、手を差し伸べたかったのは明らかだ。

手を差し伸べた涌井の思い

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「あいつ自身、すごく期待されている中でくすぶっているものもあるはずじゃないですか。何かのきっかけになれば」

中日投手陣の兄貴分的存在の涌井　©︎JIJI PRESS

　プロでの実績は上げていないにもかかわらず、根尾が子供のころから浴びてきた期待の大きさを涌井が知る瞬間があった。トレーニング期間中、メンバーで伊勢神宮に参拝にいった。参道を歩いていると、圧倒的に気づかれるのは根尾だった。全国区の知名度。だからこそあらゆるチャンスを与えられ、同時に実績にそぐわない重圧にさらされてきた。自主トレはあくまでもともにキャンプとシーズンへの準備をする場であって、涌井が指導する場ではない。ただし、投手として普遍の法則だけは伝えた。

「足を上げたとき、きれいに立ちなさいと。そうすると、腕の通り道はおのずとひとつになる。腕の通り道がひとつになると、リリースポイントは一定になるんです」

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