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「他局には出られない」人気絶頂の小林尊を“テレビから消した”独占契約問題…伝説のフードファイターはなぜ“賞金1000万円の引退試合”を行ったのか?
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荘司結有Yu Shoji
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/02/17 11:02
「大食い界のプリンス」と呼ばれた伝説のフードファイター・小林尊のインタビュー(最終回)
「モチベーションが全く維持できなくて…」
<さいごに 1試合 来年そのチャンスがないならそのまま完全に引退>
その年の秋、小林はTwitter(現X)に引退を示唆する一言を投稿していた。
「コロナ禍でずっと試合に出られないので、モチベーションが全く維持できなくて。フードファイターとしてのスピリットは意識しているわけではないけれど、もう抜け落ちた感じだったんで」
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一方、水面下ではNetflixが新たに始めるスポーツのライブ配信企画として、小林とチェスナットの“因縁のライバル”対決を企画していた。
チェスナットは2005年にネイサンズに参戦し、07年に小林の7連覇を阻んで優勝。以降、23年まで16回の優勝を果たしている。小林は07年、長年のトレーニングによる顎関節症を公表したが、チェスナットは「うそだ」と批判を繰り返し、二人は犬猿の仲とされてきた。
小林は10年にネイサンズから離れ、チェスナットとのホットドッグ対決は「未完」のまま終わっていた。一方のチェスナットも昨年、契約内容をめぐるトラブルでネイサンズを欠場。その間隙を突く形で、15年ぶりの決戦を実現させたのだ。
賞金はなんと10万ドル…Netflixで配信された引退試合
9月2日に行われたライブイベントの会場は、巨大なピラミッドがそびえ立つラスベガスのホテル「ルクソール」。その内部にまるでボクシング会場のような特設アリーナがつくられた。賞金は10万ドル。総合格闘技のような演出に、超高額な賞金。それは小林の譲れない条件だった。
「僕はフードファイトをエクストリームスポーツだと捉えています。クライミングやバイクレースのように、危険や過激さが競技の魅力だなと。よく(ジャイアント)白田にも話していたけれど、俺らこんなに身体張って世界一の勝負を見せているのに、選手としての出演フィーも多くないし、ちっちゃい世界で生きてるよねって。だから最後の試合は、とにかくデカいものを見せたかったんです」
ルールは至ってシンプルで、10分間でより多くのホットドッグを食べたほうが勝ち。ただし、ホットドッグを水に浸したり、ソーセージと分けて食べたりする行為は禁止とした。
他にも、コップのサイズや水の温度はすべて同じにするなどのルールが設けられ、辞書のような分厚さのルールブックも作られたという。その徹底ぶりは、先に作ったホットドッグが乾燥しないよう、スチーマーで一定湿度に保つほどだった。
「フードファイトを知らない人からすれば『なんでそこまで?』と思うかもしれないけれど、食べる側からするとバンズの硬さやソーセージの長さが少し違うだけでリズムを狂わされるんですよ。例えば、ハードル走で違う高さのものが交ざっていたり、インターバルがバラバラだったら走りにくいですよね? それと同じだと思います」


