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元巨人選手が“寺の住職”になっていた…戦力外から7年「朝4時半起きの修行」阪神ファンだった事故犠牲者との出会い「自分が“元プロ野球選手”だと明かした」 

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岡野誠

岡野誠Makoto Okano

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photograph byHiroki Fujioka

posted2025/02/16 11:05

元巨人選手が“寺の住職”になっていた…戦力外から7年「朝4時半起きの修行」阪神ファンだった事故犠牲者との出会い「自分が“元プロ野球選手”だと明かした」<Number Web> photograph by Hiroki Fujioka

1984年ドラフト2位で巨人に入団した藤岡寛生さん。現在は寺の住職に

 引退するとすぐ、第二電電(現・KDDI)関連の電設会社で仕事を始めた。ちょうど携帯電話やPHSが普及し始めた頃で、基地局を作るため、各家庭に飛び込み営業をした。

「社長が知り合いで、面倒見てくれました。朝、会社に行くと、地図を渡されて『この地域にアンテナを何本か立てたいから、回ってくれ』と指示されました。契約を結構取れましたし、楽しかったですね」

 休日にゴルフに行くたびに、社長は藤岡の飛距離に驚いた。「プロでもこんなに飛ばないよ。ゴルファーになれば?」と勧められ、真剣にその道を志した。

試験、修行…僧侶になるまで

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 34歳の時、転機が訪れる。

「父親が倒れたんです。病室で寝ている姿を見たら、いつまでも自分の夢を追いかけてはいけないと感じました。今までずっと好きなことをしてきて、あまりお寺のことを考えていなかった。自然と、実家を継がなければいけないという気持ちになりました」

 一念発起し、僧侶になるため通信教育を2年間受講。毎月の課題をこなし、年に数回のスクーリングでお経や作法の実演試験をクリア。修行を受けるための資格を得た。

「最後は京都の(本願寺)西山別院で2週間の修行を受けました。朝4時半起きで掃除から始まり、講義、お経や御法話の練習などを繰り返しました」

 10個以上の課題に合格。03年2月、僧侶になった。修行から帰ってきて2日後、夜更けに照願寺の電話が鳴る。「母が亡くなったので、お経をあげに来てほしい」という依頼だった。住職の父は「行ってこい」と静かに呟いた。23時頃、家に到着すると、仏壇の前に高齢女性の遺体が安置されていた。横には、涙で目の腫れた娘がたった一人で佇んでいた。

「ハンカチを取って、ご遺体の顔を確認すると、私の体が震え出しました。いざ正座をしても、手に持っている経本は左右に揺れるし、足もブルブルしている。5万6000人の東京ドームで打席に入った時と比べものにならないくらい緊張しました」

「元プロ野球選手」を初めて明かした日

 2年後の05年、神戸を走るJR福知山線で脱線事故が起こる。犠牲者の一人に女子大生がいた。法要のため、仏壇の前で正座すると、阪神選手の直筆サインなどが目に入った。聞いてみると、父親は片手にハンカチを持ちながら、「娘は阪神ファンで、甲子園で優勝する時に見に行きたいとよく話していたんです」と涙を堪えた。この年、阪神は中日と激しく首位を争い、9月14日にマジック13を点灯させた。

【次ページ】 「何事も受け入れなければ、仕方ない」

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