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「あれはガッツポーズじゃないです」フィギュア全日本4連覇、坂本花織が明かす“悔しさ”の意味…中野コーチから「もう少しできるでしょう」
posted2024/12/30 17:03
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Asami Enomoto
4連覇のかかった全日本選手権(12月20−22日、大阪)、フリーの演技を終えた坂本花織(24)は、膝をついたポーズのまま、小さく左手を握ると額に寄せた。笑顔とも苦笑いともとれる表情で1秒ほどうつむいたあと、立ち上がって挨拶をする。
「あれはガッツポーズではないです。『悔しい』という気持ちでした。ジャンプミスもあって宿題がまた出たという感じなので、世界選手権に向けてよい調整ができそうだなという感じがします」
優勝を確信する演技でありながらも、にぎりしめた拳の意味は「悔しさ」。坂本が感じた「悔しさ」の理由とは、そして世界選手権に向けた「宿題」とは何か。GPファイナルから全日本選手権までの2週間を追う。
心の中にあった「2つの課題」
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この全日本選手権に向けて、坂本の心の中にあったのは、3位になったGPファイナル(12月5-8日、フランス)で得た2つの課題を乗り越えることだった。1つは“ショートのイヤイヤ期”と呼んでいた、3回転フリップの不調。もう一つは「攻める気持ち」である。
「GPファイナルでは、ショートは慎重に行き過ぎてミスが出て4位。『やっぱり攻めていくことで自分らしさが出るんだな』ということを知ることができました」
帰国後、全日本選手権までの期間は、例年よりも1週間早い日程だった。ホームリンクで練習できるのはわずか1週間ほど。多くの選手が、疲れを取って調整するだけで精一杯の期間だろう。しかし坂本は違った。3回転フリップの技術的な改善に着手したのだ。
「GPファイナルの時はショートが“イヤイヤ期”で、曲をかけるとどうしても3回転フリップ+3回転トウループが『できないかも』という思いが出てくる。このままじゃ良くないなと思っていました」
得意であるはずのフリップがなぜできないのか。コーチやトレーナーの先生たちと体の動きを見直していくと、助走の最後で、トウを突く直前に腰が先に回転を始めてしまっていることが分かった。ではトウを突くまで腰が回らないようにするにはどうしたら良いのか……。
「私の場合、(右トウを突いて)無意識で跳ぶとフリップになるし、ルッツはアウトエッジを最後まで意識しないとルッツにならない。それなのにここ最近は、ルッツが調子よくて、フリップは調子が良くなかったんです。なので、あえてルッツと同じような助走のコースで行ってみたら良いかな、と気づいて。ルッツのコースから無意識に跳ぶとフリップになるので、いざ実践してみたら、成功の確率が上がっていったんです」
1週間まで“イヤイヤ期”とは思えないぐらい
発想の転換とでも言おうか。何年も積み重ねてきたフリップの跳び方を捨てて、むしろ苦手だったはずのルッツのコースで跳ぶ。今の体調や状況で成功させるやり方を、変化を恐れずに掴み取ったのだ。