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「ガッツポーズやりすぎだよ、演歌歌手みたい」中田璃士16歳が全日本フィギュアでみせた圧巻の演技「ノーミスしたら絶対に“大の字”をやりたいと…」
posted2024/12/30 17:04
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Asami Enomoto
栄光の階段を一段一段あがっていくかのように、中田璃士(16)は7つのジャンプを決めるたびに拳をにぎりしめる。演技を終えた瞬間、リンクに大の字に倒れ込むと、天井を見上げながらガッツポーズを繰り返した。
「いやあ、もう天国でした」
全日本ジュニア王者として推薦出場した全日本選手権。フリーで自身初となる4回転ループを含むパーフェクトの演技で、シニア勢を押しのけて銀メダルをつかんだ。ジュニア男子が表彰台に乗るのは、本田武史(当時14歳)、宇野昌磨(当時17歳)、鍵山優真(当時16歳)に続く快挙。メダルが確定した瞬間、両手で顔を覆うと、あふれる思いを受け止めた。
“あの負け”があったからこそ
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その胸中にあったのは、3位で悔し涙を流したジュニアGPファイナル(12月5-8日、フランス)のことだった。
「ジュニアGPファイナルは、日本男子初の連覇がかかった中で、すごく緊張してしまいジャンプを失敗して、悔しい思いをしました。あの負けで、『全日本選手権で結果を残さないと、去年の自分よりも弱いんだなって思われる。絶対に良い演技をしてやる』と思った。あの負けがあったからこそ、今の自分があると思います」
「あの負け」とは、実際のところどんな試合だったのか。時は、2週間前に戻る。フランス・グルノーブルで行われたジュニアGPファイナルで、前年優勝者の中田は“あること”を意識していた。
「羽生結弦選手がヒストリーメーカーと言われて、たくさんの歴史を残しているのを見て『僕も日本初というタイトルがなにか欲しいな』と思っていました。でも女子は島田麻央ちゃんがだいたいの『日本初』を記録しちゃってるので(笑)。『日本男子初』なら、ジュニアGPファイナルを連覇すれば、残せるなって思ってました」
単なる優勝が目標ではない。怖いもの知らずの16歳の、素直な気持ちのあらわれだった。
しかし、ショートは首位発進したものの、フリーはミスが連鎖し4位に。総合3位となり銅メダルを手にすると、「もう、金色に塗りたい。自分の実力はこんなもんじゃないのに」と涙目でつぶやいた。
「ショート首位から優勝を目指すのは、逆転優勝した去年とは気持ちが違って、難しかったです。練習で調子が良かった最初の4回転トウループを失敗して、動揺してしまって失敗が続いてしまいました」
「全日本終わったら一回死んでもいいので」
そんな中田の心に火が付いたのは、一夜明けた後だった。