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「信じられない」箱根駅伝で“伝説の20人抜き”はなぜ起きたのか? 4年間の箱根路で「合計50人抜いた」ケニアのごぼう抜き男を覚えているか
text by
工藤隆一Ryuichi Kudo
photograph byAFLO
posted2025/01/02 11:02
ギタウ・ダニエル(日大)が4年間の箱根駅伝で抜いたランナーの合計はなんと50人
ダニエル20人抜きの裏で…最速だったのはモグス
第85回大会は、5年ごとの記念大会だったので参加したのは例年よりも多い23チーム。1区を終了した時点での日本大の順位は、下から2番目の22位だった。ダニエルの快進撃は、襷を渡されてからすぐに始まった。まずは21位の青山学院大をかわすと、そのままひたすら走り続け、最後には神奈川大を抜いて2位に躍り出て、3区の谷口恭悠に襷をつないだ。このダニエルの「貯金」のおかげで日本大の往路は8位。総合でも7位にとどまり、シード権をしっかり確保した。
しかし、脅威の20人抜きを成し遂げたダニエルは、2区で区間賞を獲得できなかった。2区を制したのは同じケニアからの留学生、山梨学院大のメクボ・ジョブ・モグスだった。タイムはダニエルの1時間7分4秒をちょうど1分上回る1時間6分4秒の区間新記録。超人的なごぼう抜きはけっして超人的なスピードとイコールではなかったのだ。
一見派手なごぼう抜きだが、実現するにはさまざまな条件が前提になる。もちろん個人の力量が第一条件なのだが、まず自分の前に追い抜けそうなランナーが数多く存在していなければならない。次に、追い抜くランナーたちとの時間差が広がっていないことが挙げられる。
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前述したように第85回大会は記念大会で出場が23チームだった点で、最初の条件が満たされている。さらに、1区がまれにみる大混戦で、鶴見中継所でダニエルが22番目に襷を受けとったときのトップ早稲田大とのタイム差が1分46秒しかなかったことも、条件に合致していた。
データを細かく見てみると、派手な20人抜きを演じたダニエルは、前述したように区間新記録を樹立したモグスに1分も遅れを取っている。もし並走していたならば、モグスの驚異的なスピードがもっと称賛されていたはずだ。しかし、テレビ的には、この大会の2区のヒーローは断然ダニエルだったのである。