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「巨人を後悔させてやる」星野仙一が大乱闘で王貞治に拳を向け、”落合博満獲得合戦”をひっくり返したわけ…「根底にはドラフトの遺恨が」
posted2024/12/28 11:06
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
NIKKAN SPORTS
拳が頬を打ち抜く音が、スタンドまで聞こえてきた。そう思えるほどの強烈なパンチだった。1987年6月11日。熊本・藤崎台球場でその伝説の乱闘劇は起こった。
星野仙一監督率いる中日と王貞治監督が指揮する巨人が激突した試合の7回だ。マウンドの中日・宮下昌己投手が巨人のウォーレン・クロマティ外野手へ投じた初球が背中を直撃する。クロマティはヘルメットを脱ぎ捨て、「帽子をとって謝れ」と宮下に詰め寄る。宮下も宮下で1歩、2歩と前に出る。その左頬に強烈な右フックが炸裂した瞬間に、両軍入り乱れた大乱闘が始まった。
王の顔の目の前に星野が拳を…
「星野監督からはとにかく厳しく内角を攻めろと言われていました。甘くなって打たれたら、それこそ監督にボコボコにされる。それなら当ててもいいぐらいのつもりで内角を突いていた。あのときも……」
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死球も厭わないギリギリの投球。宮下にとり、死球は覚悟の上の内角攻めだった。
マウンドを中心に両軍選手の揉み合いが続く。その中で狂気の表情で“世界の王”に詰め寄ったのが星野だった。胸ぐらを掴む勢い。宥めようとした王の手を払いのけ、その顔の前に拳を突き出す。
「あれは王さんに何かをしようというのではなかった。クロマティが殴ったことに『グーはいかんでしょ』と拳を出したんです」
警察官も出動する騒ぎに
批判が集中したこの行動を、当時、中日の一軍コーチ補佐兼監督付き広報だった早川実はこう説明した。乱闘は警察官も出動する騒ぎとなったが、最後はクロマティの退場処分で試合は再開された。ただ星野の怒りは試合が終わっても収まらなかった。
「ホテルに戻ってからのミーティングでは、クロマティを止めに入らず、ボールを拾いに行ったタケシ(中村武志捕手)が槍玉に上がって、監督に『何やっとんじゃ!』とボコボコにされていました」
宮下の回想である。