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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「すごい貧血…原因は練習しすぎ」水泳・大橋悠依の運命を変えたドクターストップ「休むと“やる気がない”と言われ…」輝かしい金メダルに壮絶な過去
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph byNaoki Morita/AFLO SPORT
posted2024/12/20 11:03
10月18日、29歳の誕生日に引退会見を行った大橋悠依。会場ではバースデーケーキが用意されていた
その年の秋、思いがけないことから不調の原因が分かった。
インカレを控えた頃、寮の近くを自転車で走っていたとき、転倒して怪我を負った。その後、足の股関節のリンパが腫れたため整形外科を受診することになったのだが、そこで医師から予想外の言葉を聞くことになる。
「傷口からバイ菌が入って腫れたかもしれないからと採血したんです。そしたら病院の先生に、『すごい貧血だよ。紹介状を書くからすぐに血液内科を受診してください』と言われて。精密検査をしたら、ヘモグロビンの数値が異常に低かったんです。一般の方なら日常生活ができないほどの重症だったんですが、私の場合はアスリートで体力があるから人並みに動けてしまって気づかなかったんだろうということでした」
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医師の診断は「極度の貧血」だった。
女性アスリートは月経で鉄分を喪失するため、男性よりも鉄欠乏になりやすく、貧血になりやすい。特にアスリートの場合は激しいトレーニングによって鉄分の供給が追いつかず、鉄欠乏性貧血に陥る。大橋も競技に支障が出るほどの貧血に陥った。
ただ、不調の原因が解消されたことのほうが大橋にとっては大きかったのかもしれない。モヤモヤしていた心がスッキリと晴れ、謎が解けて脱力するような安堵感を今でも鮮明に覚えている。
食事の改善、母のサポートに感謝
原因が判明した後は食事を改善した。寮の食事で出されるものに加え、実家の母が冷凍で送ってくれたヒジキやアサリ、シジミ、切り干し大根など、鉄分が多く含まれる料理を積極的に食べた。最初は毎食後に薬を服用し、その後も1年ほどは鉄分を補う薬を服用。1カ月過ぎると貧血になる前と同じようにハードな練習にも耐えられるようになり、泳ぐ量も一気に増えた。
「全力で戦える」
「泳げることが楽しい」
診断から2カ月足らずの10月に行われた日本選手権の選考会では標準記録を突破。前向きな気持ち、そして食生活の見直しで調子を取り戻したことが、見事に数字として現れた。

