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「すごい貧血…原因は練習しすぎ」水泳・大橋悠依の運命を変えたドクターストップ「休むと“やる気がない”と言われ…」輝かしい金メダルに壮絶な過去
text by

石井宏美Hiromi Ishii
photograph byNaoki Morita/AFLO SPORT
posted2024/12/20 11:03
10月18日、29歳の誕生日に引退会見を行った大橋悠依。会場ではバースデーケーキが用意されていた
「いつも通り練習しているのになんでタイムが遅いんだろう。体も重くて苦しいし」
練習開始早々、そして試合でもスタートした直後にレースのラストのような疲労を慢性的に感じるようになった。いつも通り泳いでいるのにスピードがまったくでない。大学2年になった同4月の日本選手権では200m個人メドレー予選で40人中最下位に終わった。通常時から10秒以上タイムが落ちることもあった。
「当初は自分の努力が足りないのかなと思いこんでいました。でも、体のケアをしても全然よくならなくて。そんな状態が半年ほど続いていたんです」
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周囲からは、不調なのは練習に身が入っていないからと誤解されることもあった。大橋自身も「自分が一生懸命やっていないんじゃないか」とさえ思うようになっていた。
「一時期、1週間くらい泳がずにマネージャーとしてプールサイドでタイムを計ったりしていたこともあったんです。それは休養というよりも、人が頑張っている姿を見て私のやる気を促そうとするというような意味合いだったと思います。実際、『やる気がないんじゃないか』『なんで一生懸命やらないんだ』というようなことを言われたこともありました。そう言われることがすごくつらかったですね」
競技人生で最も孤独を感じた時間
大橋は次第に塞ぎこむようになった。ネガティブな発言や考えが先行してしまい、チームメイトに迷惑をかけるのではないか。そんな思いから、練習に行っても誰とも話をしなかった。身体の調子も一向に改善せず、側から見れば、しっかりと休養を取る選択肢もあっただろう。それでも、大橋は止まることを選ばなかった。
「それはまったく頭になかったですね。インカレも控えていたので、たとえ不調でも、どうにかしてそこに向かって行かなければいけないと練習を続けていました」
このとき、原因が身体の中にあるとは本人も、そして周りもまったく疑っていなかったという。泳ぎのせいなのか、それともメンタルのせいなのか。モヤモヤが消えない。
大橋曰く、競泳人生のなかで最も孤独を感じた時間だった。

