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「正直、引退も考えたんです」「“勝てるわけない”と…」パリ五輪で日本勢“過去最高順位”なのに? ハードル女王・福部真子(29歳)が感じたリアル
text by
加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato
photograph byJMPA
posted2024/12/15 11:00
パリ五輪の100mハードルで日本勢として過去最高順位&タイムを記録した福部真子(日本建設工業)。一方で、本人の頭の中には意外な思いが浮かんだという
「勝てる訳がないと思うんですよ。例えば、小中学校の体育の授業で、男の子と一緒に走ろうって言われた時と同じ心境。そこで『勝とう』とは思わないじゃないですか。動けば動くほど、違いを歴然と感じたんですよね」
勝負の準決勝。福部は12秒89(-0.7)の組5着だった。
電光掲示板でその数字を確認すると、思わず下を向き、目をつむった。
決勝進出のボーダーラインは、福部の前に4着でゴールしたフランス選手。ただ、タイムは12秒52と、0秒3以上の壁があった。めざしてきた「12秒50切り」が、やはり決勝進出への目安になっていた。
タイムを見た瞬間、福部の目の前は「真っ白」ではなく「真っ黒」だったという。
引退を思い直し、広島に戻ってパリ五輪をめざし3年以上が経った。
この間、自分には何かができたのか。なぜ、望んだ結果を出すことができなかったのか。簡単に受け入れられなかった。
レース後、口を衝いた「最高の12秒間」の意味
福部はレース後、テレビカメラの前で今の思いを尋ねられた。少しの間をあけて、言った。「最高の12秒間になったかなと思います」
考え抜いた末に、口をついたこの言葉。そこに、うそはなかったという。
「画面の向こうには、オリンピックを狙っていたけど、出られなかった人がたくさんいる。自分がスタート地点に立てることは、それ自体が本当に奇跡。1人で掴んだものではなく、私がパリのファイナルに向けてやると言って、力になってくれる人がどんどん増えてくれて、その人達も待ち望んでいた12秒間だった。目標は全然達成できなかったし、言いたいことを挙げ出したらきりがないけど、一言で言うならあれがベストアンサーだったと思います」
届かなかった絶望と、周囲への感謝と。28歳でつかんだ初の五輪は、複雑な思いを抱かせて幕を閉じた。
<次回へつづく>