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「正直、引退も考えたんです」「“勝てるわけない”と…」パリ五輪で日本勢“過去最高順位”なのに? ハードル女王・福部真子(29歳)が感じたリアル
text by
加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato
photograph byJMPA
posted2024/12/15 11:00
パリ五輪の100mハードルで日本勢として過去最高順位&タイムを記録した福部真子(日本建設工業)。一方で、本人の頭の中には意外な思いが浮かんだという
だが、ここでアクシデントが襲う。2023年2月ごろから、体調不良に陥り始めた。最初はストレスだと感じていたが、後に、別の理由に気がついた。
子宮に黄体ホルモンを入れ、生理不順をコントロールするために装着していた器具が、子宮に誤った形で突き刺さっていた。それが心身の不調を招き、体重が急激に増減した。
原因に気がついたのは、ブダペスト世界陸上を逃した2023年シーズンの後。この年の11月に緊急手術をした。正常な体調を取り戻したのは、パリ五輪シーズンが始まる直前だった。
2024年はシーズン序盤こそタイムが伸び悩んだが、6月の日本選手権準決勝でパリ五輪の参加標準記録を突破した。
五輪決定→日本新記録…それでも「上がらない」気持ち
7月の実業団・学生対抗選手権では、自身の日本記録を更新する12秒69(+1.2)をマーク。調子を上げているように見えたが、このとき、本人の気持ちはすでに沈みかけていたという。
「現実がわかりすぎ始めました。12秒69を出した時、この感じなら本番で出せても12秒60までだと思ったんです。スタートを改善したらこれぐらい、みたいなイメージが自分の中にあって。12秒5台となると、1段階上のギアで、もっと早い段階で最高スピードに入ってそれを維持しなきゃいけない。それは、今の自分では足りなすぎる。言葉に出すと本当にそうなりそうで、無理やり『決勝に行く』と言い続けて自分を奮い立たせました。でも、オリンピックに臨む前から、自信はゼロでしたね」
五輪本番でも、海外選手とのフィジカル差に圧倒された。ウォーミングアップ会場では、日本の女子ではほとんど見ない「すり足」でのスタートダッシュをしている。接地の音は「ドンッ」とすさまじい。気にしないように、ワイヤレスイヤホンで周囲の音を消すのに精いっぱいだった。