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「正直、引退も考えたんです」「“勝てるわけない”と…」パリ五輪で日本勢“過去最高順位”なのに? ハードル女王・福部真子(29歳)が感じたリアル
text by
加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato
photograph byJMPA
posted2024/12/15 11:00
パリ五輪の100mハードルで日本勢として過去最高順位&タイムを記録した福部真子(日本建設工業)。一方で、本人の頭の中には意外な思いが浮かんだという
1年間は専属の指導者をつけずに練習を続けた。結果は、やはり出なかった。
コーチに「12秒50を切って五輪ファイナルに」
2022年のシーズンを前に、知り合いをたどってコーチを探した。そこで出会ったのが、現在指導する尾﨑雄祐コーチ(30歳)。当時、日本トップクラスの選手を指導したことがなかった尾﨑コーチに対し、福部は初対面でいきなり言った。
「私はパリ五輪で12秒50を切って、ファイナルに進みたい。でも、あれもこれもと無駄なことはしたくない。オリンピックの決勝に進むために何が必要かだけを教えて欲しい」
当時の福部の自己ベストは、13秒13。3年間で0.6秒以上の記録更新を求めるのは、かなりの高い要求だった。
心の中では「否定されるかもな」と思っていた。だが、尾﨑コーチの答えは違った。
「よし、やろう」
その目には、何の迷いもなかった。福部はそう感じた。
コーチを選ぶ上で、福部には複数の条件があった。
・「1」を聞いたら「10」を返してくれる
・「あれをやれ、これをやれ」と指示するのではなく、提案してくれる
・同じ歩幅で一緒に歩んでくれる(寄り添って指導してくれる)
福部には、指導者との関係性で悩んだ過去がある。その分、求める基準は高かったが、尾﨑コーチはそのどれにも当てはまると思った。
「この人は本気だなって、見たら分かる。ただ強いから教えたいという好奇心ではなく、どうやって私をオリンピックのファイナルで走らせようかと、すぐに頭がシフトしているように見えた」
今までやってこなかったハードルドリルに取り組んだ。本格的なウェートトレーニングも導入した。一冬を越え、迎えた2022年シーズン。快進撃が始まった。
6月の布勢スプリントで、初の12秒台となる12秒93(+1.7)をマーク。米国・オレゴンであった世界陸上への初出場が決まった。準決勝では、日本記録の12秒82(+0.9)。さらに9月の全日本実業団で、12秒73(+1.1)まで記録を伸ばした。
「自分の想像を超えた成績が一気に出てきたので、これは本当にパリの決勝を狙えるなと思いました。特に全日本実業団は『この感じで12秒73か。だったら12秒5はいける』と」